自動車運送業で特定技能外国人を雇用するには?
~要件・試験・流れを解説~

投稿日:2025年9月10日

自動車運送業界ではドライバー不足が深刻化しており、人材確保が大きな課題となっています。そこで注目されているのが「特定技能制度」です。2019年に創設された特定技能ビザは、一定の技能を持つ外国人が日本で働くことを認める在留資格で、自動車運送業も対象分野に追加され、2024年12月から運用が始まりました。
しかし、特定技能外国人を雇用するには、外国人本人の試験合格や日本語能力だけでなく、企業側の雇用契約・支援体制といった受け入れ要件も満たす必要があります。

この記事では、自動車運送業で特定技能外国人を雇用するための要件・試験・雇用の流れ等を詳しく解説します。外国人ドライバーの採用を検討している運送業の企業様は、ぜひ参考にしてください。

1.特定技能制度とは?自動車運送業が対象になった背景

まずは特定技能制度について、おさらいしましょう。
特定技能制度は、深刻化する人手不足への対応として、人材確保が難しい産業の特定分野に限り、一定の専門性や技能を持ち、即戦力となる外国人を受け入れ、人材不足を解消することを目的として、2019年4月から始まりました。他の就労ビザや技能実習生に認められていなかった単純作業の業務にも従事することができるのが大きな特徴です。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

そして、自動車運送業が特定技能制度の対象分野となった背景には、 社会のインフラを支える業種であるにもかかわらず、深刻な人手不足であることが挙げられます。トラックドライバーの平均年齢は、全産業の平均年齢よりも高く、40代後半と高齢化が進んでおり、大型ドライバーに絞るとさらに高齢化が進んでいます。また、自動車運送業は技能実習の対象職種ではないため、技能実習からの移行もできませんでした。
このような状況を改善するために、自動車運送業分野の特定技能評価試験が設けられ、外国人に対して日本の交通ルールの理解や安全運転に必要な知識・技能を確認できるようになったことから、自動車運送業も特定技能制度の産業分野として認められることとなりました。ちなみに、技能実習の対象職種ではないため、技能試験の免除はありませんが、技能試験等に合格し、要件を満たせば、技能実習生から特定技能外国人への在留資格変更許可申請をすることも可能です。

2.特定技能で自動車運送業の外国人が従事できる業務範囲

基本となる業務は、「自動車運送業務に従事する運転業務」 です。具体的には、次のいずれかの業務に従事することができます。

  1. トラックによる貨物自動車運送

  2. タクシーによる旅客自動車運送

  3. バスによる旅客自動車運送

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また、運送業務に伴う付随作業も行うことができます。例えば、荷物の積み下ろし、運行前点検(車両の安全確認)、運転記録の作成・管理、乗客の案内や安全確保等です。ただし、専門性が低い雑務や全く関係のない業務に従事させることは認められていません。

3.特定技能外国人ドライバーに必要な要件と免許

外国人が自動車運送業の分野で特定技能ビザを取得して働くためには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 18歳以上であること
    ※第一種運転免許取得の年齢要件は中型20歳以上、大型21歳以上であることに注意。
  2. 健康状態が良好であること
  3. 従事する業務に必要な知識又は経験を必要とする技能を有していることが試験等により証明されていること
  4. 日本での生活に必要な日本語能力及び従事しようとする業務に必要な日本語能力を有していることが証明されていること

3と4について、業務区分に応じて、取得する免許や受験する試験が異なります。以下、ご参照ください。

区分 技能水準 日本語能力
運転免許 特定技能試験 日本語試験等
トラック

第一種
運転免許

自動車運送業分野
特定技能1号評価試験(トラック)
下記のいずれか
・日本語能力試験N4以上
・国際交流基金日本語基礎テスト
・技能実習2号の良好終了
タクシー 第二種
運転免許
自動車運送業分野
特定技能1号評価試験(タクシー)
日本語能力試験N3以上
バス 第二種
運転免許
自動車運送業分野
特定技能1号評価試験(バス)
日本語能力試験N3以上

特定技能試験の詳細はこちらをご覧ください。
日本語能力試験の詳細はこちらをご覧ください。
国際交流基金日本語基礎テストの詳細はこちらをご覧ください。

【注意事項】

  • 運転免許については、事前に外国の運転免許を取得している必要があります。入国後、外免切替等により日本の第一種又は第二種運転免許を取得しなければなりません。
  • トラック区分の業務については、N4以上の日本語能力でよいため、技能実習2号を良好に修了している外国人については免除されます。一方、タクシー・バス区分の業務は、接客も仕事の1つとなるため、より高い日本語能力を求められ、N3以上である必要があります。よって、技能実習生からタクシー・バス区分で特定技能外国人へ移行を目指す場合でも、他の外国人と同様に日本語能力試験は免除されません。ちなみに、技能実習生の職種・作業は問われません(自動車運送業分野と関連する職種・作業が無いため)。

4.自動車運送業の企業が満たすべき要件

特定技能外国人を受け入れるためには、企業側も満たさなくてはいけない要件があります。
全分野共通の要件と自動車運送業分野特有の要件に加えて、雇用形態・契約内容に関する要件や支援計画を作成することも求められていますので、併せて紹介します。

(1)全分野共通の要件

この中で1つでも満たさないものがあれば(欠格事由に該当すれば)、その日から5年間、特定技能外国人を受け入れることができません

  1. 労働、社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守すること
  2. 同種の業務に従事する労働者の非自発的離職者を発生させないこと(特定技能雇用契約締結の前1年及び締結後)
  3. 企業の責めに帰すべき事由で行方不明者を発生させないこと(特定技能雇用契約締結の前1年及び締結後)
  4. 関係法律による刑罰を受けていないこと(刑に処せられ、その執行後又は執行を受けることが無くなった日から5年を経過していること)
  5. 行為能力・役員等の適格性があること
  6. 実習認定の取り消しを受けた場合は、取り消しを受けてから5年が経過していること
  7. 出入国又は労働関係法令に関する不正行為を行っていないこと(特定技能雇用契約締結の前5年及び締結後)
  8. 暴力団員ではないこと
  9. 特定技能外国人の活動状況に係る文書を作成し、雇用契約終了の日から1年以上保管すること
  10. 特定技能外国人とその親族が、保証金の徴収・違約金契約等を締結させられていないこと
  11. 特定技能外国人に対する義務的支援の費用を外国人に負担させないこと
  12. 企業が労災保険の適用事業所である場合、労災保険に係る保険関係の届出を適切に行うこと
  13. 特定技能外国人が継続して働くことができるように、企業が事業を安定的に継続することができる財政的基盤を持っていること
  14. 報酬の支払い方法について、基本的には預金口座への振り込みを行うこと

上記の中で、特に注意したいのが、2の非自発的離職者です。これは、会社都合で離職させた人のことを指しますが、退職勧奨や試用期間からの本採用拒否も該当しますので、気を付けてください。

(2)自動車運送業分野特有の要件

自動車運送業分野で特定技能外国人を雇用するためには、以下の要件も満たす必要があります。

  1. 道路運送法に規定する自動車運送事業を経営する者であること
  2. 下記のいずれかであること(タクシー・バス区分は①、トラック区分は①又は②)
    働きやすい職場認証の取得 ※法人単位の取得が基本
    安全性優良事業所(Gマーク)の保有 ※事業所単位での取得だが、同法人内であれば受け入れる事業所以外で保有している場合も可
  3. 自動車運送業分野特定技能協議会の構成員になり、必要な協力を行うこと
  4. 受入れ企業は、登録支援機関に1号特定技能外国人支援計画の実施を委託する場合は、協議会の構成員となっており、かつ国土交通省及び協議会に対して必要な協力を行う登録支援機関に委託すること
  5. タクシー運送業及びバス運送業を営む企業は、特定技能1号ビザで受け入れる予定の外国人に対し、新任運転者研修を実施すること(トラック運送業を営む企業は対象外)
(3)雇用形態・契約内容に関する要件

自動車運送業の特定技能ビザを申請する前に、採用予定者と適法な雇用契約を結んでおくことも要件の1つです。適法な契約の条件としては、次のものが挙げられます。

  1. 労働関連法令に適合していること
  2. 業務内容がトラック・タクシー・バスのいずれかの運送業務であり、それに付随する関連業務であること
  3. 直接雇用であること ※自動車運送業分野では、派遣雇用は認められていない
  4. 所定労働時間がフルタイム(週5日以上かつ年間217日以上、かつ労働時間が週30時間以上)であること
  5. 特定技能外国人の所定労働時間が他の労働者の所定労働時間と同等であること
  6. 同等の業務に従事する日本人労働者の報酬額と同等以上であること
  7. 特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合は、有給休暇の取得をさせる等の配慮をすること
  8. 特定技能外国人が雇用契約終了後、帰国に要する旅費を負担することができないときは、企業が旅費を負担するとともに、円滑に出国できるよう必要な措置を講ずること
  9. 特定技能外国人の健康状況やその他生活状況を把握するために必要な措置を講ずること
(4)支援計画を作成すること

支援計画とは、特定技能1号ビザの外国人と雇用契約を締結しようとする企業が、作成しなければならないものです。この支援計画は、特定技能1号ビザの外国人が、活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするための職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援の実施に関する計画です(特定技能2号ビザの外国人は、支援計画不要です)。

この支援計画には、必ず行わなければならない義務的支援行うことが望ましいとされる任意的支援に分けられますが、支援計画書に記載した場合は、任意的支援についても支援義務が生じます。そして、この支援義務を果たさない場合、欠格事由に該当することとなりますので、注意が必要です。
なお、支援計画の項目は以下のとおりです(各項目に義務的支援と任意的支援が含まれています)。

  1. 事前ガイダンスの提供
  2. 出入国する際の送迎
  3. 適切な住居の確保に係る支援や生活に必要な契約支援
  4. 生活オリエンテーションの実施
  5. 公的手続等への同行
  6. 日本語学習の機会の提供
  7. 相談又は苦情への対応
  8. 日本人との交流促進に係る支援
  9. 非自発的離職時の転職支援
  10. 定期的な面談の実施、行政機関への通報

これらの支援計画については、全部の業務を登録支援機関に委託することができます。ですが、支援計画書の作成は登録支援機関ではできませんので、会社で作成するのが難しい場合は、ビザ専門の行政書士に依頼されることをおすすめします。

5.特定技能外国人を雇用する流れ(自動車運送業の場合)

続いて、自動車運送業の特定技能外国人(海外在住で必要な試験に合格している人)を雇用するためのおおまかな流れをご紹介します。手続きの数が非常に多く、時間もかかるため、登録支援機関や行政書士のサポートを受けながら、進められることをおすすめします。なお、海外から特定技能外国人を雇用する場合は、その外国人が単独乗務開始となるまでに8か月程度かかります。

STEP1

採用の検討を開始する

※採用するにあたり、国によって手続きに違いがあります。詳しくはこちらをご覧ください。 また、宗教の違いによって、配慮しなければならない事項も異なります。外国人の採用を検討する場合は、ここから考えていく必要があります。

STEP2

登録支援機関等に相談する

※相談する登録支援機関や人材紹介業者が、国の許可や登録を受けているかを確認しておきましょう。登録支援機関については、支援体制が整っているかどうかも確認しておく必要があります。

STEP3

求人内容を確定する

※求める能力のレベルを決めます。あらかじめ、詳細な雇用条件を登録支援機関等に相談して決めておきましょう。

STEP4

募集・書類選考・面接

※書類で過去の経歴や日本語能力等を確認し、オンラインで1回面接をするのが一般的です。

STEP5

内定・内定承諾・雇用契約締結

※採用予定外国人を決定し、内定承諾を得たら、国際郵便で雇用契約書を送付し、雇用契約を結びます。

STEP6

外国人の支援計画を策定する

※受入れ企業は、外国人が特定技能1号の活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするために、1号特定技能外国人支援計画書を作成し、この計画に基づいて支援を行わなければなりません。なお、この支援計画の実施について、一部又は全部を登録支援機関に委託することができます。その場合は、登録支援機関と委託契約を結ぶ必要があります。

STEP7

外国人に事前ガイダンスを実施する

※労働条件、活動内容等について、オンラインで説明します。これも支援内容の1つであるため、登録支援機関に委託している場合は、登録支援機関が行います。

STEP8

外国人に健康診断を受けてもらう

※健康状態が良好であることも要件の1つであるため、必ず受けてもらう必要があります。健康診断個人票に掲げられている項目が網羅されているものであれば、異なる様式の健康診断書を入管に提出しても問題ありません。

STEP9

自動車運送業分野特定技能協議会への加入

※在留資格認定証明書交付申請前に手続きを済ませておく必要があります。加入が認められるまでに約1か月かかります。

STEP10

本国で「特定技能」の活動に関して必要な手続きを行う

※特定技能外国人として日本で働く際に、カンボジア、タイ、ベトナム等の外国人については、本国で定める手続きをし、証明書等を受領しておく必要があります。

STEP11

特定活動55号ビザ(特定自動車運送業準備)の在留資格認定証明書交付申請をする

※自動車運送業の特定技能ビザを取得するために、まずはこのビザを取得して来日し、在留期間内に外免切替等による日本の運転免許を取得する必要があります。審査に1~3か月程度かかります。提出書類が多いため、行政書士に作成依頼をされるのが一般的です。

STEP12

入管から在留資格認定証明書を受領する

※入管から在留資格認定証明書を受け取ったら、外国人へ送付します。在留資格認定証明書はメール又は紙(選択可能)で交付されますので、メールでの送付も可能です。

STEP13 外国人が本国の在外日本大使館で査証申請し、ビザの交付を受ける
STEP14

在留資格認定証明書が交付されてから3か月以内に、外国人が日本に入国する

※上陸審査後、在留カードを受け取ります。その後、14日以内に住居地を定めて市役所に届け出る必要があります。この届出も支援内容の1つであるため、登録支援機関に委託している場合は、登録支援機関が同行等の支援を行います。

STEP15

入社後、外国人は外国免許切替の手続きを行う

※特定活動55号ビザは、トラック区分で6か月、タクシー・バス区分で1年の在留期限が付与されます(この在留期間は、特定技能1号の通算期間に入りません)。よって、その期間内に外免切替を行う必要があります。もし、その期間内に日本の運転免許を取得できない場合は、引き続き雇用することはできません(特定活動ビザの更新も不可)。

STEP16

外国人は初任運転者研修を受講する(タクシー・バス区分のみ)

※タクシー・バス区分で従事する予定の外国人については、外免切替後、初任運転者研修を受講する必要があります。また、研修以外の時間については、業務の関連作業(車両の清掃等)従事することも認められています。

STEP17

特定技能1号ビザの在留資格変更許可申請をする

※外免切替及び初任運転者研修(タクシー・バス区分のみ)を済ませたら、速やかに特定技能1号ビザの在留資格変更許可申請をします。特定活動ビザの在留期限が残っているからといって、期限ぎりぎりまで変更申請しないのは、適切ではありません。なお、審査に1か月程度かかります。

STEP18

許可後に単独乗務開始!

6.自動車運送業で特定技能外国人を雇った後の手続き

ここまで、特定技能外国人を雇うまでの要件や流れ等について、紹介してきましたが、雇った後も特定技能特有の手続きが必要となります。以下、主要なものをご紹介します。

  1. 定期届出(1年に1回、対象年の翌年4月1日~5月31日までに入管に提出)
  2. 随時届出(雇用条件が変わった、退職した、支援計画が変わった等の際に、事由が発生した時から14日以内に入管に提出)
  3. 在留期間更新許可申請(在留期限が1年で付与される方がほとんどのため、毎年、在留期限の3か月前~当日までに申請)

1と2については、登録支援機関に相談しながら、手続きを行ってください。また、2については、自動車運送業分野特定技能協議会にも報告する必要がある場合がありますので、協議会に確認しましょう。3については、行政書士に依頼されることをおすすめします。

7.まとめ

この記事では、自動車運送業で特定技能外国人を雇用する方法について、詳しくご紹介しました。全分野共通の要件だけでなく、自動車運送業特有の要件も加わり、受け入れる企業の体制の整備や手続きの負担は大きいと思います。その一方で、特定技能外国人の受け入れは、自動車運送業界の人手不足を解消し、物流の安定化につながる大きなチャンスでもあります。制度を上手に活用し、安心して働ける環境を整えることが、企業と外国人双方の成功につながると思います。
具体的な手続きや準備については、当事務所がサポートいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

この記事の監修者

かざはな行政書士事務所

代表行政書士 
佐々本 紗織(ささもと さおり)

プロフィール
前職の市役所勤務の中で、国際業務に従事し、外国人支援の仕事に興味を持ちました。その後、一念発起して行政書士試験を受験し、合格することができました。
2025年5月に、広島県東広島市で
国際業務専門のかざはな行政書士事務所を開業しました。ビザ申請や帰化申請の代行サポート業務で、皆さんのお役に立つため、猛勉強の毎日です。

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