特定技能の雇用条件書の書き方と注意点

投稿日:2025年9月22日

特定技能外国人を雇用する場合、必ず「雇用条件書(労働条件通知書)」を作成し、外国人に内容を理解してもらったうえで、署名をしてもらう必要があります。雇用条件書の作成及び明示は、労働基準法第15条で全ての労働者に対して義務づけられているもので、外国人労働者も例外ではありません。
特に特定技能の場合は、入管に提出する書類の1つでもあるため、内容に不備があると特定技能ビザの申請が不許可となるリスクがあります。また、日本語だけでなく、外国人本人が理解できる言語での交付が求められる点も大きな特徴です。

この記事では、特定技能外国人を雇用する際の雇用条件書の書き方と注意点について、解説します。

1.適法な雇用条件とは

特定技能ビザの申請をする前に、採用予定者と適法な雇用契約を結んでおくことは、特定技能ビザを取得するための必須条件の1つです。適法な契約の条件としては、次のものが挙げられます。

  1. 労働関連法令に適合していること
  2. 特定産業分野に属する業務であり、熟練した技能を要する業務であること
  3. 特定技能外国人の所定労働時間が他の労働者の所定労働時間と同等であること
  4. 同等の業務に従事する日本人労働者の報酬額と同等以上であること
  5. 特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合は、有給休暇の取得をさせる等の配慮をすること
  6. 派遣労働者として雇用する場合は、全雇用期間の派遣先及び派遣期間が定められていること
  7. 特定産業分野ごとの特有の事情を考慮して個別に定める基準に適合していること

上記条件を網羅した内容の雇用条件書を作成する必要があります。なお、特定技能ビザの場合、入管が提供している参考様式がありますので、そちらを使って漏れ無く作成すれば、網羅できます。

2.雇用条件書の書き方

それでは早速、雇用条件書の記載例(参考:出入国在留管理庁)を見ながら、注意すべきポイントについて、確認していきましょう。今回は、便宜上日本語版で作成しておりますが、本来は、採用予定の外国人が分かる言語が併記されているバージョンで作成するのが望ましいです。雇用条件書ほか特定技能の各種様式は、英語、中国語、ベトナム語等、全部で10言語用意されていますので、こちらからダウンロードしてください。

※今回は、海外にいる外国人を1号特定技能外国人として雇用するために作成した雇用条件書の記載例です。

Ⅰ.雇用契約期間や契約の更新の有無について記載します。既に日本に在留している外国人の場合は、入国予定日の記載は不要です。1号特定技能外国人を雇用する場合は、「自動的に更新する」か「更新する場合があり得る」にチェックが入ることがほとんどだと思いますが、後者を選択した場合は、さらにその判断基準もチェックする必要があります。更新上限の有無については、1号特定技能外国人の場合、在留期間が通算5年までとなっているため、更新上限は「有」で、通算契約期間は「5」年までとなります。2号特定技能外国人の場合、在留期間に更新上限はありませんので、個々の状況に応じて選択することとなります。

Ⅱ.就業場所について記載します。就業場所が複数ある場合は、主要な就業場所を明記した上で、必要に応じて任意の様式にすべて記載して添付します。なお、農業、漁業以外は直接雇用しか選択できません。雇入れ直後の就業場所から就業場所を変更する可能性がある場合は、その変更先の就業場所も記載します。

Ⅲ.従事すべき業務の分野と業務区分を記載します。変更の可能性がある場合は、その分野と業務区分も記載します。

Ⅳ.労働時間等について、就業規則に基づいて記載します。法定労働時間は1日8時間、週40時間と決まっていますので、その範囲で設定された所定労働時間数を記入します。日本人労働者と同等の労働時間であることが求められます。また、変形労働時間制を採用している場合は、その詳細を記載する必要があります。1年単位変形労働時間制の場合は、特定技能外国人が理解できる言語を併記した年間カレンダーの写しと労働基準監督署へ届け出た変形労働制に関する協定書の写しを添付する必要があります。
なお、休憩時間は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上与えなければなりません(基準より多く与える分には問題ありません)。
それから、所定労働日数については、特定技能外国人はフルタイムでの雇用でなければならないため、週5日以上、年217日以上であることが求められます。

Ⅴ.休日について、就業規則に基づいて記載します。法定休日は1週間に1日以上、又は4週間に4日以上と定められています(基準より多く与える分には問題ありません)。

Ⅵ.休暇について、就業規則に基づいて記載します。年次有給休暇は、入社後6ヶ月間勤務した正社員等(8割以上出勤していることが条件)に対しては、10日付与することとなっています。その他、会社が任意で定めることができる特別休暇についても記載する必要があります。
また、特定技能外国人が一時帰国を希望した場合、有給又は無給休暇を取得させなければなりません。このことが雇用条件書に最初から記載されていること(必須条件であること)に注意してください。一時帰国以外にも、外国に住む家族が短期滞在で来日した場合等も、当該外国人が有給休暇を取得できるよう配慮する必要があります。特定技能外国人が休暇を取得したことで、業務上の不利益な扱いが無いよう注意しましょう。

Ⅶ.賃金について記載します。賃金の詳細は別紙1「賃金の支払」で記載することとなりますので、ここでは基本賃金や諸手当、割増賃金率等を記載します。固定残業代がある場合は、固定残業代を除いた賃金の額を記載します。
割増賃金率について、中小企業でも2023年4月から、時間外労働時間が1ヶ月60時間を超えた時は、50%の割増率となることに注意が必要です。
また、賃金支払い方法について、口座振込か現金手渡しか選択できますが、特定技能外国人に対する賃金の支払いを確実かつ適正なものとするため、口座振込が推奨されています。ただし、口座振込は労働者が同意した場合に限られますので、必ず当該外国人の同意を得なければなりません。
労使協定に基づく賃金支払時の控除は、社会保険料や雇用保険料等が控除されるかどうかを選択します。控除内訳は別紙1に記載します。
その他、昇給、賞与、退職金の有無等や休業手当の内容について記載します。

Ⅷ.退職に関する事項について就業規則に基づいて記載します。民法上は退職希望日の2週間前までに退職を申し出ればよいとされています(月給制の場合は賃金計算期間の前半に申し入れる必要があります)が、実際は引継ぎ等の期間を確保するために、退職希望日の30日前にしているところが多いと思います。

Ⅸ.その他、社会保険の加入状況等や健康診断、相談窓口について記載します。また、契約終了後の帰国時の旅費について、特定技能外国人が旅費を負担できない時は、会社が負担することが明記されていることに注意が必要です。

最後に、就業規則を確認できる場所や方法を記載した後、契約する特定技能外国人に内容を説明し、理解してもらった上で署名を書いてもらえば完成です。

3.別紙1「賃金の支払」の書き方

続いて、別紙1「賃金の支払」の記載例(参考:出入国在留管理庁)を見ながら、注意すべきポイントについて、確認していきましょう。

1.基本賃金には、月給又は日給、時間給を記載します(固定残業代を含めない)。また、月給・日給の場合は、1時間当たりの金額を記載し、日給・時間給の場合は1ヶ月当たりの金額を記載します。基本賃金が最低賃金を下回っていないかは必ず確認しましょう。

2.諸手当の額及び計算方法等には、どのような手当がいくら支給されるのか、詳しく記載します。固定残業代に係る手当があれば、(e)に記載します。

3.1ヶ月当たりの支払概算額(1+2)を記載します。

4.賃金支払時に控除する項目の詳細と合計額を記載します。税金については、所得税+住民税(住民税は在留資格更新・変更の時のみ)の金額、社会保険料については、健康保険料+厚生年金保険料の金額を記載します。その他、社宅に係る費用等、どのような項目でどのくらいの額が賃金から引かれるのか、特定技能外国人に説明するために記載します。

5.手取り支給額(3-4)を記載します。

賃金の支払の書き方は以上です。

雇用条件書と賃金の支払の内容を特定技能外国人に説明し、理解してもらったら、特定技能雇用契約書にも署名してもらいます。特定技能雇用契約書も、英語、中国語、ベトナム語等、全部で10言語用意されていますので、こちらからダウンロードして活用してください。
また、雇用条件書、特定技能雇用契約書は2部作成し、会社と特定技能外国人がそれぞれ1部ずつ保有する必要があります。

4.雇用条件書の注意点

雇用条件書に係る注意点として、一番気を付けるべきポイントは、特定技能外国人が内容を十分に理解しているかどうか、確認することです。
雇用条件書等は、母国語に翻訳した様式がありますが、言葉が理解できていても内容の分かりにくい部分があります。受入れ企業が説明していたとしても、よく理解できていなかったというケースも考えられるため「これはどういうことなのか?」ということを特定技能外国人がどれだけ理解しているかを確認しておく必要があります。また、後でトラブルにならないためにも、特定技能外国人が十分に理解したうえでの署名が必要です。とくに賃金支払時の控除される項目や有給休暇に関する事項は、トラブルの原因となることが多いため、丁寧に説明しましょう

5.まとめ

この記事では、雇用条件書の書き方と注意点について、詳しく解説しました。
特定技能の雇用条件書は、労働基準法の遵守+入管要件+母国語対応の3つを満たすことが重要です。不備があると、在留資格諸申請の不許可や労務トラブルにつながるため、非常に重要な書類と言えます。
当事務所では、特定技能外国人を受け入れる企業様向けに、雇用条件書等の作成サポートを行っています。書類作成や入管対応に不安がある場合は、どうぞお気軽にご相談ください。

この記事の監修者

かざはな行政書士事務所

代表行政書士 
佐々本 紗織(ささもと さおり)

プロフィール
前職の市役所勤務の中で、国際業務に従事し、外国人支援の仕事に深く関わってきました。
その経験を活かし、行政書士としてより専門的なサポートを行うため、一念発起して資格を取得しました。
2025年5月に、広島県東広島市で国際業務専門の「かざはな行政書士事務所」を開業。
ビザ申請や帰化申請を中心に、外国人の方と企業の皆さまを支援しています。

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