林業分野で特定技能外国人を雇用するには?
~要件・試験・流れを解説~

投稿日:2025年10月29日

日本の林業は、木材需要の拡大や担い手の高齢化により、長年にわたって人手不足が深刻な状態が続いています。特に伐木や造林等の現場作業では、季節や地形に左右される厳しい労働環境の中で、安全に作業を進めるための人材確保が大きな課題となっています。

こうした中注目されているのが、特定技能(林業分野)による外国人雇用です。技能試験と日本語試験に合格した外国人材を即戦力として受け入れることができ、人手不足の解消につながります。

この記事では、特定技能(林業分野)を活用して外国人を雇用するために必要な条件や手続き、注意すべきポイント等を詳しく解説します。

1.特定技能制度とは?林業が対象になった背景

日本の林業は、国産木材の需要の高まりや森林資源の成熟により、伐採・搬出の増加が見込まれる一方で、担い手不足が深刻化しています。特に現場の作業員は高齢化が進み、若年層の新規就業者は年々減少しており、全国的に人手の確保が大きな課題となっています。こうした状況の中で、国は持続可能な森林整備と木材の安定供給を維持するため、外国人材の活用を視野に入れた新たな仕組みを検討しました。

その結果、2024年に「林業分野」が特定技能制度の対象として新たに追加されました。特定技能制度は、一定の技能を有する外国人を即戦力として受け入れることを目的とした制度です。現場では、伐木・造林・運材といった基幹業務を担える人材を確保することで、森林資源の循環利用を支え、地域の林業経営を安定化させる狙いがあります。

このように、林業が特定技能の対象となった背景には、人手不足の深刻化と国産木材の需要増、そして地域林業の持続的発展を支えるための即戦力人材確保という明確な政策目的があります。

2.林業分野で特定技能外国人が従事できる業務範囲

基本となる業務は、森林において樹木を育てて丸太を生産し、苗木を植える等の作業に従事すること です。具体的には、次の業務に従事することができます。

  • 苗木を植え、樹木を育てる作業

  • 丸太を生産する作業 等​

​​上記のほか、日本人が通常従事することとなる以下の関連業務に付随的に従事することも認められています。

  • 生産した丸太を使用して行う加工等の作業
  • 丸太の生産に伴う副産物(樹皮、つる等)を使用して行う製造等の作業
  • 機器・装置・工具等の保守管理
  • 資材の管理・運搬
  • 事業所等の清掃作業

なお、林業分野については、2号特定技能外国人(1号特定技能外国人として実務経験を経て、必要な試験に合格した熟練者)の受け入れはできません(2025年10月時点)。

3.特定技能外国人(候補者)に必要な要件

外国人が林業分野で特定技能ビザを取得して働くためには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 18歳以上であること
  2. 健康状態が良好であること
  3. 従事する業務に必要な知識又は経験を必要とする技能を有していることが試験等により証明されていること
  4. 日本での生活に必要な日本語能力及び従事しようとする業務に必要な日本語能力を有していることが証明されていること

3と4について、外国人がどのようなルートで1号特定技能外国人を目指しているかによって、求められる試験が異なります。以下、ご参照ください。

対象者 技能水準 日本語能力
特定技能試験 日本語試験等
技能実習2号を良好に修了した者
【技能実習2号ビザ】
林業技能測定試験 免除
上記以外の者 林業技能測定試験

■下記どちらかの試験合格
①日本語能力試験N4以上
②国際交流基金日本語基礎テスト

林業技能測定試験の詳細はこちらをご覧ください。
日本語能力試験の詳細はこちらをご覧ください。
国際交流基金日本語基礎テストの詳細はこちらをご覧ください。

【注意事項】

  • 技能実習2号を良好に修了した人については、職種・作業の種類にかかわらず、国際交流基金日本語基礎テスト及び日本語能力試験(N4以上)のいずれの試験も免除されます。
  • 技能実習制度にも林業職種がありますが、2025年10月時点では技能実習2号から特定技能1号へ移行可能となっていません。ですが、2026年度までに技能実習2号から特定技能1号へ移行可能となる予定です。

4.特定技能外国人を雇用したい事業者が満たすべき要件

特定技能外国人を受け入れるためには、事業者側も満たさなくてはいけない要件があります。
全分野共通の要件と林業特有の要件に加えて、雇用形態・契約内容に関する要件や支援計画を作成することも求められていますので、併せて紹介します。

(1)全分野共通の要件

この中で1つでも満たさないものがあれば(欠格事由に該当すれば)、その日から5年間、特定技能外国人を受け入れることができません

  1. 労働、社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守すること
  2. 非自発的離職者を発生させないこと(特定技能雇用契約締結の前1年及び締結後)
  3. 行方不明者を発生させないこと(特定技能雇用契約締結の前1年及び締結後)
  4. 関係法律による刑罰を受けていないこと(刑に処せられ、その執行後又は執行を受けることが無くなった日から5年を経過していること)
  5. 実習認定の取り消しを受けた場合は、取り消しを受けてから5年が経過していること
  6. 出入国又は労働関係法令に関する不正行為を行っていないこと(特定技能雇用契約締結の前5年及び締結後)
  7. 暴力団員ではないこと
  8. 行為能力・役員等の適格性があること
  9. 特定技能外国人の活動状況に係る文書を作成し、雇用契約終了の日から1年以上保管すること
  10. 特定技能外国人とその親族が、保証金の徴収・違約金契約等を締結させられていないこと
  11. 特定技能外国人に対する義務的支援の費用を外国人に負担させないこと
  12. 特定技能外国人を派遣労働者として受け入れる場合、派遣元が当該分野に係る業務を行っている者等で、適当と認められる者であるほか、派遣先も1~4の基準に適合すること
  13. 会社が労災保険の適用事業所である場合、労災保険に係る保険関係の届出を適切に行うこと
  14. 特定技能外国人が継続して働くことができるように、会社が事業を安定的に継続することができる財政的基盤を持っていること
  15. 報酬の支払い方法について、基本的には預金口座への振り込みを行うこと
  16. 地域における共生社会の実現のために寄与する責務を果たしていること
  17. 特定産業分野ごとの特有の事情に応じて個別に定める基準に適合していること

上記の中で、特に注意したいのが、2の非自発的離職者です。これは、会社都合で離職させた人のことを指しますが、退職勧奨や試用期間からの本採用拒否も該当しますので、気を付けてください。詳しくはこちらをご覧ください。

(2)林業分野特有の要件

林業分野で特定技能外国人を雇用するためには、以下の要件も満たす必要があります。

  1. 受入れ事業者は、農林水産省が設置する林業特定技能協議会(以下、協議会)の構成員になること
  2. 受入れ事業者は、協議会において協議が調った措置を講ずること
  3. 受入れ事業者は、協議会に対し、必要な協力を行うこと
  4. 受入れ事業者は、農林水産省又はその委託を受けた者が行う調査又は指導等に対し、必要な協力を行うこと
  5. 受入れ事業者は、登録支援機関に1号特定技能外国人支援計画の実施を委託するに当たっては、協議会及び農林水産省に対し必要な協力を行う登録支援機関に委託すること
(3)雇用形態・契約内容に関する要件

林業分野の特定技能ビザを申請する前に、採用予定者と適法な雇用契約を結んでおくことも要件の1つです。適法な契約の条件としては、次のものが挙げられます。雇用条件書の書き方についてはこちらをご参照ください。

  1. 労働関連法令に適合していること
  2. 業務内容が、森林において樹木を育てて丸太を生産し、苗木を植える等の作業であること
  3. 直接雇用であること ※林業分野では、派遣雇用は認められていない
  4. 所定労働時間がフルタイム(週5日以上かつ年間217日以上、かつ労働時間が週30時間以上)であること
  5. 特定技能外国人の所定労働時間が他の労働者の所定労働時間と同等であること
  6. 同等の業務に従事する日本人労働者の報酬額と同等以上であること
  7. 特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合は、有給休暇の取得をさせる等の配慮をすること
  8. 特定技能外国人が雇用契約終了後、帰国に要する旅費を負担することができないときは、企業が旅費を負担するとともに、円滑に出国できるよう必要な措置を講ずること
  9. 特定技能外国人の健康状況やその他生活状況を把握するために必要な措置を講ずること
(4)支援計画を作成すること

支援計画とは、1号特定技能外国人と雇用契約を締結しようとする企業が、作成しなければならないものです。この支援計画は、1号特定技能外国人が、活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするための職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援の実施に関する計画です。

この支援計画には、必ず行わなければならない義務的支援行うことが望ましいとされる任意的支援に分けられますが、支援計画書に記載した場合は、任意的支援についても支援義務が生じます。そして、この支援義務を果たさない場合、欠格事由に該当することとなりますので、注意が必要です。
なお、支援計画の項目は以下のとおりです(各項目に義務的支援と任意的支援が含まれています)。詳細はこちらをご覧ください。

  1. 事前ガイダンスの提供
  2. 出入国する際の送迎
  3. 適切な住居の確保に係る支援や生活に必要な契約支援
  4. 生活オリエンテーションの実施
  5. 日本語学習の機会の提供
  6. 相談又は苦情への対応
  7. 日本人との交流促進に係る支援
  8. 非自発的離職時の転職支援
  9. 定期的な面談の実施、行政機関への通報

これらの支援計画については、全部の業務を登録支援機関に委託することができます。ですが、支援計画書の作成は登録支援機関ではできませんので、事業所で作成するのが難しい場合は、ビザ専門の行政書士に依頼されることをおすすめします。

5.特定技能外国人を雇用する流れ(林業分野の場合)

続いて、林業分野の特定技能外国人(日本に在留しており、必要な試験等に合格した外国人)を雇用するためのおおまかな流れをご紹介します。手続きの数が非常に多く、時間もかかるため、登録支援機関や行政書士のサポートを受けながら、進められることをおすすめします。手続きがすべて完了するまでに4か月程度かかります。

STEP1 事業者がハローワーク等に求人票を出す又は登録支援機関等から人材紹介を受ける
STEP2 候補者の外国人と面接し、選考を行う

STEP3

外国人と雇用契約を結ぶ

※外国人の労働条件が適法であることが求められます。

STEP4

外国人の支援計画を策定する

※事業者は、外国人が特定技能1号の活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするために、1号特定技能外国人支援計画書を作成し、この計画に基づいて支援を行わなければなりません。なお、この支援計画の実施について、一部又は全部を登録支援機関に委託することができます。その場合は、登録支援機関と委託契約を結ぶ必要があります。

STEP5

外国人に事前ガイダンスを行う

※労働条件、活動内容等について、対面又はZoom等で説明します。これも支援計画の1つであるため、登録支援機関に委託している場合は、登録支援機関が行います。

STEP6

林業特定技能協議会へ加入する

※在留資格変更申請前に加入する必要があります。申請してから約10日で加入通知書が届きます。

STEP7

本国で「特定技能」の活動に関して必要な手続きを行う

※特定技能外国人として日本で働く際に、カンボジア、タイ、ベトナムの外国人については、本国で定める手続きをし、証明書等を受領しておく必要があります。なお、タイについては技能実習2号・3号から特定技能外国人へ移行する方のみ、ベトナムについては、技能実習2号と2年以上の課程を修了した(又は修了予定の)留学生から特定技能外国人へ移行する方のみ、手続きの対象となっています。

STEP8

外国人に健康診断を受けてもらう

※健康状態が良好であることも審査基準の1つであるため、必ず受けてもらう必要があります。健康診断個人票に掲げられている項目が網羅されているものであれば、異なる様式の健康診断書を入管に提出しても問題ありません。

STEP9

特定技能1号ビザの在留資格変更許可申請をする

※審査に2か月程度かかります。

STEP10 許可後に、就労開始!

6.林業分野で特定技能外国人を雇った後の手続き

ここまで、特定技能外国人を雇うまでの要件や流れ等について紹介してきましたが、雇った後も特定技能特有の手続きが必要となります。以下、主要なものをご紹介します。

  1. 定期届出(1年に1回、対象年の翌年4月1日~5月31日までに入管に提出)
  2. 随時届出(雇用条件が変わった、退職した、支援計画が変わった等の際に、事由が発生した時から14日以内に入管に提出)
  3. 在留期間更新許可申請(在留期限が1年で付与される方がほとんどのため、毎年、在留期限の3か月前~当日までに申請)

1と2については、登録支援機関に相談しながら、手続きを行ってください。3については、行政書士に依頼されることをおすすめします。

7.まとめ

林業分野での特定技能制度は、これからの地域林業を支える大切な制度です。外国人材の受入れを適切に行うことで、現場の人手不足を補いながら、安全で持続可能な林業経営を実現することができます。ですが、特定技能林業の受入れには、入管手続きだけでなく、労働条件や生活支援等、多方面の準備が必要です。

当事務所では、特定技能をはじめとした在留資格の申請手続きや受入体制づくりをサポートしています。外国人材の力を地域の林業に活かしたいとお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。

この記事の監修者

かざはな行政書士事務所

代表行政書士 
佐々本 紗織(ささもと さおり)

プロフィール
前職の市役所勤務の中で、国際業務に従事し、外国人支援の仕事に深く関わってきました。
その経験を活かし、行政書士としてより専門的なサポートを行うため、一念発起して資格を取得しました。
2025年5月に、広島県東広島市で国際業務専門の「かざはな行政書士事務所」を開業。
ビザ申請や帰化申請を中心に、外国人の方と企業の皆さまを支援しています。

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