造船・舶用工業分野で特定技能外国人を雇用するには?
~要件・試験・流れを解説~

投稿日:2025年10月19日

造船や舶用機器産業は、日本の製造業の中でも高い技術力を誇る分野です。しかし近年は、人材の高齢化や若手不足が深刻な課題となっています。生産拠点の多くは地方圏、特に瀬戸内や九州に集中しており、若者の都市部への流出が進む中で、若手人材の確保がますます難しくなっているのが現状です。

そのような中で注目されているのが、「特定技能(造船・舶用工業)」制度です。この制度を活用すれば、一定の技能と日本語能力を持つ外国人材を受け入れることができ、現場の即戦力として活躍してもらうことができます。

この記事では、造船・舶用工業分野で特定技能外国人を雇用したい企業様向けに、対象業種・要件・手続きの流れ・注意点をわかりやすく解説します。

1.特定技能制度とは?造船・舶用工業が対象になった背景

造船・舶用工業が特定技能の対象となった背景には、人手不足の深刻化があります。特に瀬戸内や九州等、地方の造船所では、若手人材の確保が難しい状況が続いています。地方から都市部への人材流出も進み、現場の維持・生産体制の確保が経営上の大きな課題となっています。これまでも「技能実習制度」を通じて外国人が現場で働いてきましたが、技能実習はあくまで「技能の移転」が目的であり、労働力としての受け入れ制度ではありません。そのため、実習を終えた外国人が引き続き日本で働くことはできず、現場では慢性的な人手不足が続いていました。

こうした状況を受け、政府は国内の造船・舶用工業分野の人材不足を補い、技術の継承を支えるため、2019年4月に特定技能制度を創設し、対象分野の1つに「造船・舶用工業分野」を加えました。​この分野では、一定の技能試験と日本語試験に合格した外国人が、労働者として正規に雇用されることが可能です。さらに、関連職種・作業の技能実習2号を修了した外国人は、特定技能1号へスムーズに移行できる仕組みも整えられています。

この制度は、単なる人手不足対策にとどまらず、日本の造船技術を次世代へ引き継ぐための重要な仕組みとして位置づけられています。

2.造船・舶用工業分野で特定技能外国人が従事できる業務範囲

造船・舶用工業分野には、3種類の定められた業務区分があります1号特定技能外国人は、「監督者の指示を理解し、又は自らの判断により」次の3種類の業務区分のいずれかに従事することとなります。なお、主たる業務として従事するためには、その業務区分に対応する技能評価試験に合格している必要があります。

  1. 造船:溶接、塗装、鉄工、とび、配管、船舶加工

  2. 舶用機械:溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、配管、鋳造、金属プレス加工、強化プラスチック成形、機械保全、船用機械加工

  3. 舶用電気電子機器:機械加工、電気機器組立て、金属プレス加工、電子機器組み立て、プリント配線板製造、配管、機器保全、船用電気電子機器加工

上記のほか、日本人が通常従事することとなる以下の関連業務に付随的に従事することも認められています。

  • 読図作業
  • 作業工程管理
  • 検査(外観、寸法、材質、強度、非破壊、耐圧気密等)
  • 機器・装置・工具の保守管理
  • 機器・装置・運搬機の運転
  • 資材の材料管理・配置
  • 部品・製品の養生
  • 足場の組立て・解体
  • 廃材処理
  • 梱包・出荷
  • 資材・部品・製品の運搬
  • 入出渠
  • 清掃

また、2号特定技能外国人(1号特定技能外国人として実務経験を2年以上経て、必要な試験に合格した人)については、複数の作業員を指揮・命令・管理しながら」1~3のいずれかの業務に従事することとなります。

3.特定技能外国人(候補者)に必要な要件

外国人が造船・舶用工業分野で特定技能ビザを取得して働くためには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 18歳以上であること
  2. 健康状態が良好であること
  3. 従事する業務に必要な知識又は経験を必要とする技能を有していることが試験等により証明されていること
  4. 日本での生活に必要な日本語能力及び従事しようとする業務に必要な日本語能力を有していることが証明されていること

3と4について、外国人がどのようなルートで1号特定技能外国人を目指しているかによって、求められる試験が異なります。以下、ご参照ください。

対象者 技能水準 日本語能力
特定技能試験 日本語試験等
関連職種・作業の技能実習2号を良好に修了した者
【技能実習2号ビザ】
免除 免除
関連職種・作業以外の技能実習2号を良好に修了した者
【技能実習2号ビザ】
■下記どちらかの試験合格
造船・舶用工業分野特定技能1号試験
②技能検定3級
免除
上記以外の者 ■下記どちらかの試験合格
造船・舶用工業分野特定技能1号試験
②技能検定3級

■下記どちらかの試験合格
①日本語能力試験N4以上
②国際交流基金日本語基礎テスト

造船・舶用工業分野特定技能試験の詳細はこちらをご覧ください。
日本語能力試験の詳細はこちらをご覧ください。
国際交流基金日本語基礎テストの詳細はこちらをご覧ください。

【注意事項】

  • 関連職種・作業の技能実習2号を良好に修了したとして技能試験の合格等の免除を受けたい場合には、技能実習2号修了時の技能検定3級又は技能評価試験(専門級)の合格証明書の写しの提出が必要です。合格していない場合は、造船・舶用工業分野特定技能1号試験を受験し合格するか、実習実施者が作成した技能等の修得状況を評価した文書の提出が必要です。
    なお、試験が免除される技能実習2号の関連職種・作業は以下のPDFを参照してください。
    (例:とびの技能実習2号を良好に修了し、検定等に合格した外国人は、造船区分の技能試験を免除されます。)
  • 1号特定技能外国人から2号特定技能外国人への移行を目指す場合は、さらに「造船・舶用工業分野特定技能2号試験」又は「技能検定1級」に合格する必要があります。
    上記試験の受験条件は、試験日の前日までに、造船・舶用工業において複数の作業員を指揮・命令・管理する監督者としての実務経験が2年以上あることです。

4.特定技能外国人を雇用したい企業が満たすべき要件

特定技能外国人を受け入れるためには、企業側も満たさなくてはいけない要件があります。
全分野共通の要件と造船・舶用工業分野特有の要件に加えて、雇用形態・契約内容に関する要件や支援計画を作成することも求められていますので、併せて紹介します。

(1)全分野共通の要件

この中で1つでも満たさないものがあれば(欠格事由に該当すれば)、その日から5年間、特定技能外国人を受け入れることができません

  1. 労働、社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守すること
  2. 非自発的離職者を発生させないこと(特定技能雇用契約締結の前1年及び締結後)
  3. 行方不明者を発生させないこと(特定技能雇用契約締結の前1年及び締結後)
  4. 関係法律による刑罰を受けていないこと(刑に処せられ、その執行後又は執行を受けることが無くなった日から5年を経過していること)
  5. 実習認定の取り消しを受けた場合は、取り消しを受けてから5年が経過していること
  6. 出入国又は労働関係法令に関する不正行為を行っていないこと(特定技能雇用契約締結の前5年及び締結後)
  7. 暴力団員ではないこと
  8. 行為能力・役員等の適格性があること
  9. 特定技能外国人の活動状況に係る文書を作成し、雇用契約終了の日から1年以上保管すること
  10. 特定技能外国人とその親族が、保証金の徴収・違約金契約等を締結させられていないこと
  11. 特定技能外国人に対する義務的支援の費用を外国人に負担させないこと
  12. 特定技能外国人を派遣労働者として受け入れる場合、派遣元が当該分野に係る業務を行っている者等で、適当と認められる者であるほか、派遣先も1~4の基準に適合すること
  13. 会社が労災保険の適用事業所である場合、労災保険に係る保険関係の届出を適切に行うこと
  14. 特定技能外国人が継続して働くことができるように、会社が事業を安定的に継続することができる財政的基盤を持っていること
  15. 報酬の支払い方法について、基本的には預金口座への振り込みを行うこと
  16. 地域における共生社会の実現のために寄与する責務を果たしていること
  17. 特定産業分野ごとの特有の事情に応じて個別に定める基準に適合していること

上記の中で、特に注意したいのが、2の非自発的離職者です。これは、会社都合で離職させた人のことを指しますが、退職勧奨や試用期間からの本採用拒否も該当しますので、気を付けてください。詳しくはこちらをご覧ください。

(2)造船・舶用工業製品製造業分野特有の要件

造船・舶用工業分野で特定技能外国人を雇用するためには、以下の要件も満たす必要があります。

  1. 受入れ企業は、国土交通省が設置する造船・舶用工業分野特定技能協議会(以下、協議会)の構成員になること
  2. 受入れ企業は、協議会に対し、必要な協力を行うこと
  3. 受入れ企業は、国土交通省又はその委託を受けた者が行う調査又は指導に対し、必要な協力を行うこと
  4. 受入れ企業は、登録支援機関に1号特定技能外国人支援計画の実施を委託するに当たっては、上記1から3の条件を全て満たす登録支援機関に委託すること
  5. 受入れ企業は、特定技能外国人に対し、必要に応じて訓練・各種研修を実施すること
  6. 受入れ企業は、特定技能外国人からの求めに応じ、実務経験を証明する書面を交付すること
(3)雇用形態・契約内容に関する要件

造船・舶用工業分野の特定技能ビザを申請する前に、採用予定者と適法な雇用契約を結んでおくことも要件の1つです。適法な契約の条件としては、次のものが挙げられます。雇用条件書の書き方についてはこちらをご参照ください。

  1. 労働関連法令に適合していること
  2. 業務内容が造船・舶用工業分野で定められた3種類の業務区分のいずれかであること
  3. 直接雇用であること ※造船・舶用工業分野では、派遣雇用は認められていない
  4. 所定労働時間がフルタイム(週5日以上かつ年間217日以上、かつ労働時間が週30時間以上)であること
  5. 特定技能外国人の所定労働時間が他の労働者の所定労働時間と同等であること
  6. 同等の業務に従事する日本人労働者の報酬額と同等以上であること
  7. 特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合は、有給休暇の取得をさせる等の配慮をすること
  8. 特定技能外国人が雇用契約終了後、帰国に要する旅費を負担することができないときは、企業が旅費を負担するとともに、円滑に出国できるよう必要な措置を講ずること
  9. 特定技能外国人の健康状況やその他生活状況を把握するために必要な措置を講ずること
(4)支援計画を作成すること

支援計画とは、1号特定技能外国人と雇用契約を締結しようとする企業が、作成しなければならないものです。この支援計画は、1号特定技能外国人が、活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするための職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援の実施に関する計画です。2号特定技能外国人には、支援計画不要です。)

この支援計画には、必ず行わなければならない義務的支援行うことが望ましいとされる任意的支援に分けられますが、支援計画書に記載した場合は、任意的支援についても支援義務が生じます。そして、この支援義務を果たさない場合、欠格事由に該当することとなりますので、注意が必要です。
なお、支援計画の項目は以下のとおりです(各項目に義務的支援と任意的支援が含まれています)。詳細はこちらをご覧ください。

  1. 事前ガイダンスの提供
  2. 出入国する際の送迎
  3. 適切な住居の確保に係る支援や生活に必要な契約支援
  4. 生活オリエンテーションの実施
  5. 日本語学習の機会の提供
  6. 相談又は苦情への対応
  7. 日本人との交流促進に係る支援
  8. 非自発的離職時の転職支援
  9. 定期的な面談の実施、行政機関への通報

これらの支援計画については、全部の業務を登録支援機関に委託することができます。ですが、支援計画書の作成は登録支援機関ではできませんので、事業所で作成するのが難しい場合は、ビザ専門の行政書士に依頼されることをおすすめします。

5.特定技能外国人を雇用する流れ(造船・舶用工業分野の場合)

続いて、造船・舶用工業分野の特定技能外国人(日本に在留しており、関連職種・作業の技能実習2号を良好に修了予定の外国人)を雇用するためのおおまかな流れをご紹介します。手続きの数が非常に多く、時間もかかるため、登録支援機関や行政書士のサポートを受けながら、進められることをおすすめします。手続きがすべて完了するまでに4ヶ月程度かかります。

STEP1

技能実習修了予定の外国人と雇用契約を結ぶ

※外国人の労働条件が適法であることが求められます。

STEP2

外国人の支援計画を策定する

※会社は、外国人が特定技能1号の活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするために、1号特定技能外国人支援計画書を作成し、この計画に基づいて支援を行わなければなりません。なお、この支援計画の実施について、一部又は全部を登録支援機関に委託することができます。その場合は、登録支援機関と委託契約を結ぶ必要があります。

STEP3

外国人に事前ガイダンスを行う

※労働条件、活動内容等について、対面又はZoom等で説明します。これも支援計画の1つであるため、登録支援機関に委託している場合は、登録支援機関が行います。

STEP4

造船・舶用工業分野特定技能協議会へ加入する

※在留資格変更申請前に加入する必要があります。審査に3週間程度かかります。

STEP5

本国で「特定技能」の活動に関して必要な手続きを行う

※特定技能外国人として日本で働く際に、カンボジア、タイ、ベトナムの外国人については、本国で定める手続きをし、証明書等を受領しておく必要があります。

STEP6

外国人に健康診断を受けてもらう

※健康状態が良好であることも審査基準の1つであるため、必ず受けてもらう必要があります。健康診断個人票に掲げられている項目が網羅されているものであれば、異なる様式の健康診断書を入管に提出しても問題ありません。

STEP7

外国人が関連職種・作業の技能実習2号を修了(在留期間満了3ヶ月前)

※技能実習期間を2年10ヶ月修了していることが必須条件です。

STEP8

特定技能1号ビザの在留資格変更許可申請をする

※審査に2ヶ月程度かかります。

STEP9 許可後に、就労開始!

6.造船・舶用工業分野で特定技能外国人を雇った後の手続き

ここまで、特定技能外国人を雇うまでの要件や流れ等について紹介してきましたが、雇った後も特定技能特有の手続きが必要となります。以下、主要なものをご紹介します。

  1. 定期届出(1年に1回、対象年の翌年4月1日~5月31日までに入管に提出)
  2. 随時届出(雇用条件が変わった、退職した、支援計画が変わった等の際に、事由が発生した時から14日以内に入管に提出)
  3. 在留期間更新許可申請(在留期限が1年で付与される方がほとんどのため、毎年、在留期限の3か月前~当日までに申請)

1と2については、登録支援機関に相談しながら、手続きを行ってください。3については、行政書士に依頼されることをおすすめします。

7.まとめ

特定技能(造船・舶用工業)を活用すれば、人手不足の解消に大きく役立ちます。
一方で、申請書類の作成や支援体制の整備等、専門的な知識が必要な手続きも多くあります。

当事務所では、特定技能制度の活用を検討する企業様に対し、受入れ要件の確認から申請書類の作成及び申請までをトータルでサポートしています。外国人雇用を安心して進めたい企業様は、ぜひ一度ご相談ください。

この記事の監修者

かざはな行政書士事務所

代表行政書士 
佐々本 紗織(ささもと さおり)

プロフィール
前職の市役所勤務の中で、国際業務に従事し、外国人支援の仕事に深く関わってきました。
その経験を活かし、行政書士としてより専門的なサポートを行うため、一念発起して資格を取得しました。
2025年5月に、広島県東広島市で国際業務専門の「かざはな行政書士事務所」を開業。
ビザ申請や帰化申請を中心に、外国人の方と企業の皆さまを支援しています。

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