投稿日:2025年10月17日
日本の漁業では、担い手の高齢化や若手不足が深刻な課題となっています。特に沿岸漁業や養殖業等では、日々の作業を支える人手を確保することが難しくなっています。
業界全体で、生産性向上のために、ICT等を活用した効率化を図ったり、国内人材確保のために、漁業学校で学ぶ若者への就業準備支援金の交付等を行ったりしていますが、それ以上に減少する就業人数の方が多いのが現状です。
こうした中で注目されているのが、「特定技能(漁業分野)」による外国人材の受け入れです。技能試験と日本語試験に合格した外国人材を即戦力として受け入れることができ、人手不足の解消につながります。
この記事では、特定技能(漁業分野)を活用して外国人を雇用するために必要な条件や手続き、注意すべきポイント等を詳しく解説します。
漁業が特定技能の対象となった背景には、担い手の高齢化や若手の減少による深刻な人手不足があります。漁業就業者の平均年齢は50代後半を超えており、特に沿岸漁業や養殖業では日々の作業を支える人手が不足しています。地域の人口減少も進む中で、「このままでは操業を続けられない」と感じる事業者も少なくありません。また、これまで漁業分野では「技能実習制度」により外国人材を受け入れてきましたが、技能実習はあくまで「技術移転を目的とした制度」であり、労働力確保を主な目的とするものではありません。したがって、現場で経験を積んだ人材が戦力となる頃には帰国してしまうという課題がありました。
こうした背景を受け、2019年4月に新たに導入されたのが特定技能制度で、漁業がその対象分野の1つとして加えられました。特定技能制度では、技能試験等に合格した外国人はもちろんのこと、技能実習2号を修了した外国人については、試験免除で移行できる仕組みが整えられ、現場での即戦力として長期的に働くことが可能です。特定技能制度は、単なる労働力確保のための制度ではなく、「地域の漁業を守り、次の世代へつなげるための仕組み」として位置づけられています。
なお、漁業分野については、同じ地域であっても、対象魚種や漁法等によって繁忙期・閑散期が異なるため、直接雇用だけでなく、派遣雇用も可能です。つまり、繁忙期のみ派遣雇用で特定技能外国人を雇用するといったことも可能です。また、特定技能外国人が繁忙期の半年間だけ働き、閑散期の半年間は一時帰国することも可能なため、同じ特定技能外国人に通算で5年間になるまで(半年ずつの雇用のため、実際には10年間)働いてもらうこともできます。ただし、その外国人が別の事業所で働いた期間がある場合は、その期間を入れて通算5年となりますので、注意してください。
なお、受入れ事業所において漁業又は養殖業の業務に従事する日本人が通常従事することとなる以下の関連業務に付随的に従事することも可能です。
また、2号特定技能外国人(1号特定技能外国人として実務経験を2年以上経て、特定技能2号評価試験及び日本語能力試験(N3以上)に合格した人)については、上記に加えて、「指揮・管理者の補佐、作業員の指導及び作業工程の管理等」も業務の1つとなります。
外国人が漁業分野で特定技能ビザを取得して働くためには、以下の要件を満たす必要があります。
3と4について、外国人がどのようなルートで1号特定技能外国人を目指しているかによって、求められる試験が異なります。以下、ご参照ください。
| 対象者 | 技能水準 | 日本語能力 |
|---|---|---|
| 特定技能試験 | 日本語試験等 | |
| 漁船漁業又は養殖業の技能実習2号を良好に修了した者 【技能実習2号ビザ】 | 免除 | 免除 |
| 漁船漁業又は養殖業以外の技能実習2号を良好に修了した者 【技能実習2号ビザ】 | 1号漁業技能測定試験(漁業/養殖業) | 免除 |
| 上記以外の者 | 1号漁業技能測定試験(漁業/養殖業) | ■下記どちらかの試験合格 |
漁業技能測定試験の詳細はこちらをご覧ください。
日本語能力試験の詳細はこちらをご覧ください。
国際交流基金日本語基礎テストの詳細はこちらをご覧ください。
【注意事項】
特定技能外国人を受け入れるためには、事業者側も満たさなくてはいけない要件があります。
全分野共通の要件と漁業特有の要件に加えて、雇用形態・契約内容に関する要件や支援計画を作成することも求められていますので、併せて紹介します。
上記の中で、特に注意したいのが、2の非自発的離職者です。これは、会社都合で離職させた人のことを指しますが、退職勧奨や試用期間からの本採用拒否も該当しますので、気を付けてください。詳しくはこちらをご覧ください。
漁業分野で特定技能外国人を雇用するためには、以下の要件も満たす必要があります。
1について、派遣先の対象地域は、派遣元責任者が日帰りで派遣労働者からの苦情の処理を行える地域であることが求められます。
3について、各構成員が遵守しなければならない取り決めがあり、守らなければ協議会から除名される可能性があるので、注意が必要です。
漁業での取り決めは、①特定技能外国人材の安全性確保、②漁船一隻当たりの技能実習生及び1号特定技能外国人の配乗人数が日本人乗組員と同数以下であること、③外国人材の配乗人数の定期報告、➃他の事業所からの外国人材の引き抜き防止です。
養殖業での取り決めは、①就業規則の整備の促進、②人権上の問題及びその他不正行為に対する横断的な予防措置、③他の事業所からの外国人材の引き抜き防止です。
この支援計画には、必ず行わなければならない義務的支援と行うことが望ましいとされる任意的支援に分けられますが、支援計画書に記載した場合は、任意的支援についても支援義務が生じます。そして、この支援義務を果たさない場合、欠格事由に該当することとなりますので、注意が必要です。
なお、支援計画の項目は以下のとおりです(各項目に義務的支援と任意的支援が含まれています)。詳細はこちらをご覧ください。
これらの支援計画については、全部の業務を登録支援機関に委託することができます。ですが、支援計画書の作成は登録支援機関ではできませんので、作成するのが難しい場合は、ビザ専門の行政書士に依頼されることをおすすめします。
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続いて、漁業分野の特定技能外国人(日本に在留しており、関連職種の技能実習2号を良好に修了予定の外国人)を直接雇用するためのおおまかな流れをご紹介します。手続きの数が非常に多く、時間もかかるため、登録支援機関や行政書士のサポートを受けながら、進められることをおすすめします。手続きがすべて完了するまでに4か月程度かかります。
| STEP1 | 技能実習修了予定の外国人と雇用契約を結ぶ ※外国人の労働条件が適法であることが求められます。 |
|---|---|
| STEP2 | 外国人の支援計画を策定する ※事業者は、外国人が特定技能1号の活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするために、1号特定技能外国人支援計画書を作成し、この計画に基づいて支援を行わなければなりません。なお、この支援計画の実施について、一部又は全部を登録支援機関に委託することができます。その場合は、登録支援機関と委託契約を結ぶ必要があります。 |
| STEP3 | 外国人に事前ガイダンスを行う ※労働条件、活動内容等について、対面又はZoom等で説明します。これも支援計画の1つであるため、登録支援機関に委託している場合は、登録支援機関が行います。 |
| STEP4 | 漁業特定技能協議会へ加入する ※在留資格変更申請前に加入する必要があります。、営む漁業や養殖業について必要な指導・助言が行える2号構成員に対して、加入申請します。 |
| STEP5 | 本国で「特定技能」の活動に関して必要な手続きを行う ※特定技能外国人として日本で働く際に、カンボジア、タイ、ベトナムの外国人については、本国で定める手続きをし、証明書等を受領しておく必要があります。なお、タイについては技能実習2号・3号から特定技能外国人へ移行する方のみ、ベトナムについては、技能実習2号と2年以上の課程を修了した(又は修了予定の)留学生から特定技能外国人へ移行する方のみ、手続きの対象となっています。 |
| STEP6 | 外国人に健康診断を受けてもらう ※健康状態が良好であることも審査基準の1つであるため、必ず受けてもらう必要があります。健康診断個人票に掲げられている項目が網羅されているものであれば、異なる様式の健康診断書を入管に提出しても問題ありません。 |
| STEP7 | 外国人が技能実習2号を修了(在留期間満了3ヶ月前) ※技能実習期間を2年10ヶ月修了していることが必須条件です。 |
| STEP8 | 特定技能1号ビザの在留資格変更許可申請をする ※審査に2か月程度かかります。 |
| STEP9 | 許可後に、就労開始! |
ここまで、特定技能外国人を雇うまでの要件や流れ等について紹介してきましたが、雇った後も特定技能特有の手続きが必要となります。以下、主要なものをご紹介します。(派遣雇用の場合は不要です)
1と2については、登録支援機関に相談しながら、手続きを行ってください。3については、行政書士に依頼されることをおすすめします。
特定技能外国人の受け入れは、人手不足を解消するだけでなく、漁業現場に新しい力をもたらしてくれます。ただし、受け入れには制度の理解と正しい手続きが欠かせません。
専門家に相談しながら準備を進めることで、安心して外国人材とともに働ける環境を整えることができます。制度をうまく活用し、地域の漁業を次の世代へつなげていきましょう。
当事務所では、特定技能をはじめとした在留資格の申請手続きをサポートしています。漁業分野での外国人材活用をご検討中の方は、どうぞお気軽にご相談ください。
かざはな行政書士事務所
代表行政書士
佐々本 紗織(ささもと さおり)
プロフィール
前職の市役所勤務の中で、国際業務に従事し、外国人支援の仕事に深く関わってきました。
その経験を活かし、行政書士としてより専門的なサポートを行うため、一念発起して資格を取得しました。
2025年5月に、広島県東広島市で入管業務専門の「かざはな行政書士事務所」を開業。
ビザ申請や帰化申請を中心に、外国人の方と企業の皆様を支援しています。
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