農業分野で特定技能外国人を雇用するには?
~要件・試験・流れを解説~

投稿日:2025年10月14日

「人手が足りないけれど、募集しても応募が無い」「経験者を採用するのは至難の業・・」そんな悩みを抱える農業事業者の方も多いのではないでしょうか。
農業分野では、担い手不足が深刻化しており、年々農業従事者が減少しています。業界全体で、AIやIoT等の先端技術を活用し、スマート農業の実用化に取り組む等、生産性向上を図っていますが、必要な量の食料供給を持続的に確保するためには、やはり一定数の人手が必要です。

こうした中注目されているのが、特定技能(農業分野)による外国人雇用です。技能試験と日本語試験に合格した外国人材を即戦力として受け入れることができ、人手不足の解消につながります。

この記事では、特定技能(農業分野)を活用して外国人を雇用するために必要な条件や手続き、注意すべきポイント等を詳しく解説します。

1.特定技能制度とは?農業が対象になった背景

農業が特定技能の対象となった背景には、深刻な人手不足があります。1990年に約480万人いた農業従事者は、2020年には約136万人にまで減少し、その多くが高齢者です。これまで外国人材は「技能実習制度」で受け入れられてきましたが、実習はあくまで「技能の移転」が目的であり、労働力としての受入れではありませんでした。そのため、実習を終えた外国人が引き続き日本で働くことはできず、現場では常に人手不足が続いていたのです。

こうした課題を受け、2019年4月に創設された特定技能制度で、農業がその対象分野の1つとして加えられました。特定技能制度では、技能試験等に合格した外国人はもちろんのこと、技能実習2号を修了した外国人については、試験免除で移行できる仕組みが整えられ、現場での即戦力として長期的に働くことが可能です。特定技能制度は、農業の持続的な経営と地域の活性化を支える重要な仕組みと言えるでしょう。

なお、農業分野については、季節や地域によって期間や仕事内容が異なるため、直接雇用だけでなく、派遣雇用も可能です。例えば、農業の仕事は閑散期と繁忙期がはっきりしていることが多いため、繁忙期のみ派遣雇用で特定技能外国人を雇用するといったことも可能です。また、特定技能外国人が繁忙期の半年間だけ働き、閑散期の半年間は一時帰国することも可能なため、同じ特定技能外国人に通算で5年間になるまで(半年ずつの雇用のため、実際には10年間)働いてもらうこともできます。

2.農業分野で特定技能外国人が従事できる業務範囲

基本となる業務は、「耕種農業全般」「畜産農業全般」のどちらか です。具体的には、次の業務に従事することができます。

  1. 耕種農業全般:栽培管理、農産物の集出荷・選別等
    (例各作物に応じた土壌づくり、施肥作業、種子、苗木の取扱い、資材、装置の取扱い、栽培に関する作業、安全衛生業務等)

  2. 畜産農業全般:飼養管理、畜産物の集出荷・選別等
    (例:各畜種に応じた器具の取扱い、個体の取扱い、観察、飼養管理、生産物の取扱い、安全衛生業務等)

なお、受入れ事業所において耕種農業又は畜産農業の業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務に付随的に従事することも可能です

  • 生産した農畜産物を原料又は材料の一部として使用する製造又は加工の作業
  • 農畜産物の生産に伴う副産物(稲わら、家畜排泄物等)を原料又は材料の一部として使用する製造又は加工の作業
  • 農畜産物の運搬、陳列又は販売の作業
  • 農畜産物を原料又は材料として製造され、又は加工された物の運搬、陳列又は販売の作業
  • 農畜産物の生産に伴う副産物を原料又は材料として製造され、又は加工された物(肥料、飼料等)の運搬、陳列又は販売の作業
  • その他、日本人が通常従事している作業(畜産農業と耕種農業を複合経営している事業所において、畜産農業の技能を有する特定技能外国人が耕種農業の作業に従事する場合、冬場の除雪作業に従事する場合等)

また、2号特定技能外国人(1号特定技能外国人として実務経験を2~3年以上経て、特定技能2号評価試験に合格した人)については、上記に加えて、「管理業務」も業務の1つとなります。

  • 管理業務:農場管理、品質管理、人材育成等

3.特定技能外国人(候補者)に必要な要件

外国人が農業分野で特定技能ビザを取得して働くためには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 18歳以上であること
  2. 健康状態が良好であること
  3. 従事する業務に必要な知識又は経験を必要とする技能を有していることが試験等により証明されていること
  4. 日本での生活に必要な日本語能力及び従事しようとする業務に必要な日本語能力を有していることが証明されていること

3と4について、外国人がどのようなルートで1号特定技能外国人を目指しているかによって、求められる試験が異なります。以下、ご参照ください。

対象者 技能水準 日本語能力
特定技能試験 日本語試験等
耕種農業又は畜産農業の技能実習2号を良好に修了した者
【技能実習2号ビザ】
免除 免除
耕種農業又は畜産農業以外の技能実習2号を良好に修了した者
【技能実習2号ビザ】
1号農業技能測定試験 免除
上記以外の者 1号農業技能測定試験

■下記どちらかの試験合格
①日本語能力試験N4以上
②国際交流基金日本語基礎テスト

1号農業技能測定試験の詳細はこちらをご覧ください。
日本語能力試験の詳細はこちらをご覧ください。
国際交流基金日本語基礎テストの詳細はこちらをご覧ください。

【注意事項】

  • 耕種農業又は畜産農業の技能実習2号を良好に修了したとして技能試験の合格等の免除を受けたい場合には、技能実習2号修了時の農業技能評価試験(専門級)の実技試験の合格証明書の写しの提出が必要です。合格していない場合は、農業技能測定試験を受験し合格するか、実習実施者が作成した技能等の修得状況を評価した文書の提出が必要です。
  • 1号特定技能外国人から2号特定技能外国人への移行を目指す場合は、さらに「2号農業技能測定試験」に合格する必要があります。2号農業技能測定試験の受験条件は、試験日において、試験区分に応じ、耕種農業若しくは畜産農業の現場において複数の作業員を指導しながら作業に従事し、工程を管理する者としての2年以上の実務経験があること、又は耕種農業若しくは畜産農業の現場における3年以上の実務経験があることです。

4.特定技能外国人を雇用したい事業者が満たすべき要件

特定技能外国人を受け入れるためには、事業者側も満たさなくてはいけない要件があります。
全分野共通の要件と農業特有の要件に加えて、雇用形態・契約内容に関する要件や支援計画を作成することも求められていますので、併せて紹介します。

(1)全分野共通の要件

この中で1つでも満たさないものがあれば(欠格事由に該当すれば)、その日から5年間、特定技能外国人を受け入れることができません

  1. 労働、社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守すること ※ただし農業の場合は、労働時間、休憩及び休日に関する労働基準法の規定は適用除外。
  2. 非自発的離職者を発生させないこと(特定技能雇用契約締結の前1年及び締結後)
  3. 行方不明者を発生させないこと(特定技能雇用契約締結の前1年及び締結後)
  4. 関係法律による刑罰を受けていないこと(刑に処せられ、その執行後又は執行を受けることが無くなった日から5年を経過していること)
  5. 実習認定の取り消しを受けた場合は、取り消しを受けてから5年が経過していること
  6. 出入国又は労働関係法令に関する不正行為を行っていないこと(特定技能雇用契約締結の前5年及び締結後)
  7. 暴力団員ではないこと
  8. 行為能力・役員等の適格性があること
  9. 特定技能外国人の活動状況に係る文書を作成し、雇用契約終了の日から1年以上保管すること
  10. 特定技能外国人とその親族が、保証金の徴収・違約金契約等を締結させられていないこと
  11. 特定技能外国人に対する義務的支援の費用を外国人に負担させないこと
  12. 特定技能外国人を派遣労働者として受け入れる場合、派遣元が当該分野に係る業務を行っている者等で、適当と認められる者であるほか、派遣先も1~4の基準に適合すること
  13. 会社が労災保険の適用事業所である場合、労災保険に係る保険関係の届出を適切に行うこと
  14. 特定技能外国人が継続して働くことができるように、会社が事業を安定的に継続することができる財政的基盤を持っていること
  15. 報酬の支払い方法について、基本的には預金口座への振り込みを行うこと
  16. 地域における共生社会の実現のために寄与する責務を果たしていること
  17. 特定産業分野ごとの特有の事情に応じて個別に定める基準に適合していること

上記の中で、特に注意したいのが、2の非自発的離職者です。これは、会社都合で離職させた人のことを指しますが、退職勧奨や試用期間からの本採用拒否も該当しますので、気を付けてください。詳しくはこちらをご覧ください。

(2)農業分野特有の要件

農業分野で特定技能外国人を雇用するためには、以下の要件も満たす必要があります。

  1. 直接雇用形態の場合、受入れ事業者は、労働者を過去5年以内に同一の労働者(技能実習生含む)を6ヶ月以上継続して雇用した経験又はこれに準ずる経験(過去5年以内に6ヶ月以上継続して労務管理に関する業務に従事した経験)があること
  2. 労働者派遣形態の場合、次の要件を満たすこと
    ①派遣元となる労働者派遣事業者は、農業現場の実情を把握しており、特定技能外国人の受入れを適正かつ確実に遂行するために必要な能力を有していること⇒主に農協(JA)が想定されます
    ②派遣先となる事業者は、過去5年以内に同一の労働者(技能実習生含む)を6ヶ月以上継続して雇用した経験がある者又は派遣先責任者講習等を受講した者を派遣先責任者として選任していること
  3. 受入れ事業者(派遣事業者含む)は、農業特定技能協議会(以下、協議会)の構成員になること
  4. 受入れ事業者(派遣事業者含む)及び派遣先事業者は、協議会に対し必要な協力を行うこと
  5. 受入れ事業者(派遣事業者含む)は、登録支援機関に1号特定技能外国人支援計画の実施を委託するに当たっては、協議会に対し必要な協力を行う登録支援機関に委託すること
  6. 受入れ事業者(派遣事業者含む)は、特定技能外国人からの求めに応じ、実務経験を証明する書面を交付すること

2について、派遣先の対象地域は、派遣元責任者が日帰りで派遣労働者からの苦情の処理を行える地域であることが求められます。

(3)雇用形態・契約内容に関する要件

農業分野の特定技能ビザを申請する前に、採用予定者と適法な雇用契約を結んでおくことも要件の1つです。適法な契約の条件としては、次のものが挙げられます。雇用条件書の書き方についてはこちらをご参照ください。

  1. 労働関連法令に適合していること ※ただし農業の場合は、労働時間、休憩及び休日に関する労働基準法の規定は適用除外。
  2. 業務内容が耕種農業全般又は畜産農業全般のどちらか及び管理業務(2号のみ)であること
  3. 直接雇用又は派遣雇用であること 
  4. 所定労働時間がフルタイム(週5日以上かつ年間217日以上、かつ労働時間が週30時間以上)であること
  5. 特定技能外国人の所定労働時間が他の労働者の所定労働時間と同等であること
  6. 同等の業務に従事する日本人労働者の報酬額と同等以上であること
  7. 特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合は、有給休暇の取得をさせる等の配慮をすること
  8. 特定技能外国人が雇用契約終了後、帰国に要する旅費を負担することができないときは、事業者が旅費を負担するとともに、円滑に出国できるよう必要な措置を講ずること
  9. 特定技能外国人の健康状況やその他生活状況を把握するために必要な措置を講ずること

3について、農協が特定技能外国人を直接雇用した上で、組合員等の農業者から農作業等の業務を請け負い、当該外国人にその業務に従事してもらうといった働き方も可能です。その場合、作業の指揮命令は、雇用主である農協が行う必要があることに注意が必要です。

(4)支援計画を作成すること

支援計画とは、1号特定技能外国人と雇用契約を締結しようとする事業者が、作成しなければならないものです。この支援計画は、1号特定技能外国人が、活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするための職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援の実施に関する計画です。2号特定技能外国人には、支援計画不要です。)なお、派遣雇用で外国人材を受け入れる場合は、派遣元の受入れ事業者が特定技能外国人と雇用契約を結ぶため、支援計画の作成義務は派遣元の事業者に課されます

この支援計画には、必ず行わなければならない義務的支援行うことが望ましいとされる任意的支援に分けられますが、支援計画書に記載した場合は、任意的支援についても支援義務が生じます。そして、この支援義務を果たさない場合、欠格事由に該当することとなりますので、注意が必要です。
なお、支援計画の項目は以下のとおりです(各項目に義務的支援と任意的支援が含まれています)。詳細はこちらをご覧ください。

  1. 事前ガイダンスの提供
  2. 出入国する際の送迎
  3. 適切な住居の確保に係る支援や生活に必要な契約支援
  4. 生活オリエンテーションの実施
  5. 日本語学習の機会の提供
  6. 相談又は苦情への対応
  7. 日本人との交流促進に係る支援
  8. 非自発的離職時の転職支援
  9. 定期的な面談の実施、行政機関への通報

これらの支援計画については、全部の業務を登録支援機関に委託することができます。ですが、支援計画書の作成は登録支援機関ではできませんので、作成するのが難しい場合は、ビザ専門の行政書士に依頼されることをおすすめします。

5.特定技能外国人を雇用する流れ(農業分野の場合)

続いて、農業分野の特定技能外国人(日本に在留しており、必要な試験等に合格した外国人)を直接雇用するためのおおまかな流れをご紹介します。手続きの数が非常に多く、時間もかかるため、登録支援機関や行政書士のサポートを受けながら、進められることをおすすめします。手続きがすべて完了するまでに4か月程度かかります。

STEP1 事業者が最寄りのJAやハローワーク等に相談し、人材紹介を受ける
STEP2 候補者の外国人と面接し、選考を行う

STEP3

外国人と雇用契約を結ぶ

※外国人の労働条件が適法であることが求められます。

STEP4

外国人の支援計画を策定する

※事業者は、外国人が特定技能1号の活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするために、1号特定技能外国人支援計画書を作成し、この計画に基づいて支援を行わなければなりません。なお、この支援計画の実施について、一部又は全部を登録支援機関に委託することができます。その場合は、登録支援機関と委託契約を結ぶ必要があります。

STEP5

外国人に事前ガイダンスを行う

※労働条件、活動内容等について、対面又はZoom等で説明します。これも支援計画の1つであるため、登録支援機関に委託している場合は、登録支援機関が行います。

STEP6

本国で「特定技能」の活動に関して必要な手続きを行う

※特定技能外国人として日本で働く際に、カンボジア、タイ、ベトナムの外国人については、本国で定める手続きをし、証明書等を受領しておく必要があります。なお、タイについては技能実習2号・3号から特定技能外国人へ移行する方のみ、ベトナムについては、技能実習2号と2年以上の課程を修了した(又は修了予定の)留学生から特定技能外国人へ移行する方のみ、手続きの対象となっています。

STEP7

農業特定技能協議会へ加入する

※在留資格変更申請前に加入する必要があります。申請から約2週間で加入通知書が届きます。

STEP8

外国人に健康診断を受けてもらう

※健康状態が良好であることも審査基準の1つであるため、必ず受けてもらう必要があります。健康診断個人票に掲げられている項目が網羅されているものであれば、異なる様式の健康診断書を入管に提出しても問題ありません。

STEP9

特定技能1号ビザの在留資格変更許可申請をする

※審査に2か月程度かかります。

STEP10 許可後に、就労開始!

6.農業分野で特定技能外国人を雇った後の手続き

ここまで、特定技能外国人を雇うまでの要件や流れ等について紹介してきましたが、雇った後も特定技能特有の手続きが必要となります。以下、主要なものをご紹介します。(派遣雇用の場合は不要です)

  1. 定期届出(1年に1回、対象年の翌年4月1日~5月31日までに入管に提出)
  2. 随時届出(雇用条件が変わった、退職した、支援計画が変わった等の際に、事由が発生した時から14日以内に入管に提出)
  3. 在留期間更新許可申請(在留期限が1年で付与される方がほとんどのため、毎年、在留期限の3か月前~当日までに申請)

1と2については、登録支援機関に相談しながら、手続きを行ってください。3については、行政書士に依頼されることをおすすめします。

7.まとめ

特定技能制度は、人手不足が深刻な農業分野にとっても、大きな支えとなる制度です。外国人材を受け入れることで、安定した人材確保につながり、持続的な農業経営を支えることも期待できます。
一方で、受入れには在留資格の申請、雇用契約の整備、定期的な届出等、多くの法律的・事務的な手続きが伴います。これらを誤って進めると、思わぬ不許可やトラブルにつながる恐れもあります。
だからこそ、外国人材の受け入れは専門家と一緒に進めることが安心・確実です。専門家のサポートを受けることで、制度を正しく理解しながらスムーズに人材を迎え入れることができ、本業に集中することができます。

当事務所では、特定技能をはじめとした在留資格の申請手続きをサポートしています。農業分野での外国人材活用をご検討中の方は、どうぞお気軽にご相談ください。

この記事の監修者

かざはな行政書士事務所

代表行政書士 
佐々本 紗織(ささもと さおり)

プロフィール
前職の市役所勤務の中で、国際業務に従事し、外国人支援の仕事に深く関わってきました。
その経験を活かし、行政書士としてより専門的なサポートを行うため、一念発起して資格を取得しました。
2025年5月に、広島県東広島市で国際業務専門の「かざはな行政書士事務所」を開業。
ビザ申請や帰化申請を中心に、外国人の方と企業の皆さまを支援しています。

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