工業製品製造業分野で特定技能外国人を雇用するには?
~要件・試験・流れを解説~

投稿日:2025年10月7日

日本の製造業では、慢性的な人手不足が続いています。特に中小企業の製造工場では若手人材の確保が難しく、生産ラインの維持にも支障が出ているのが現状です。
工場のデジタル化による生産性向上等を行っている企業も増えていますが、それ以上に今後も成長が見込まれている産業分野であるため、人手不足解消は喫緊の課題です。

そのような中で注目されているのが「特定技能(工業製品製造業)」制度です。この制度を活用すれば、一定の技能と日本語能力を持つ外国人材を受け入れることができ、現場の即戦力として活躍してもらうことができます。

この記事では、工業製品製造業分野で特定技能外国人を雇用したい企業様向けに、対象業種・要件・手続きの流れ・注意点をわかりやすく解説します。

1.特定技能制度とは?工業製品製造業が対象になった背景

工業製品製造業が特定技能の対象となった背景には、長年にわたる深刻な人手不足があります。特に中小企業では、熟練工の高齢化が進む一方で、若手人材の確保が難しい状況です。これまでも「技能実習制度」を通じて外国人が現場で働いてきましたが、技能実習はあくまで「技能の移転」が目的であり、労働力としての受け入れ制度ではありません。そのため、実習を終えた外国人が引き続き日本で働くことはできず、現場では慢性的な人手不足が続いていました。

こうした状況を受け、政府は即戦力として働ける外国人を受け入れるための仕組みとして、2019年4月に「特定技能制度」を創設しました。ただし、当初の特定技能制度では、製造業を①素形材産業分野、②産業機械製造業分野、③電気・電子情報関連産業分野の3分野に分けていました。しかし現場では、これらの作業が密接に関連しており、分野をまたいで業務を行うケースが多くありました。そのため、「どの分野に該当するのか分かりにくい」、「転職の際に分野が違うと手続きが煩雑になる」といった課題が生じていたのです。

こうした現場の実態を踏まえ、より柔軟に人材を活用できる仕組みとするため、2024年3月に3分野を統合し、新たに「工業製品製造業分野」が創設されました。この見直しにより、企業は業務内容に合わせて幅広い作業に外国人材を従事させることが可能となり、現場の負担軽減や生産性向上が期待されています。また、外国人本人にとっても、同じ「工業製品製造業分野」であれば転職やキャリア形成がしやすくなるというメリットがあります。

​この分野では、一定の技能試験と日本語試験に合格した外国人が、労働者として正規に雇用されることが可能です。さらに、関連職種・作業の技能実習2号を修了した外国人は、特定技能1号へスムーズに移行できる仕組みも整えられています。

2.工業製品製造業分野で特定技能外国人が従事できる業務範囲

工業製品製造業分野には、10種類の定められた業務があります1号特定技能外国人は、「指導者の指示を理解し、又は自らの判断により」次の10種類の業務のいずれかに従事することとなります。なお、主たる業務として従事するためには、その業務区分に対応する技能評価試験に合格している必要があります。

  1. 機械金属加工:鋳造、 鍛造、ダイカスト、機械加工、金属プレス加工、鉄工、工場板金、仕上げ、プラスチック成形、機械検査、機械保全、電気機器組立て、塗装、溶接、工業包装、強化プラスチック成形、金属熱処理業

  2. 電気電子機器組立て:機械加工、仕上げ、プラスチック成形、プリント配線板製造、電子機器組立て、電気機器組立て、機械検査、機械保全、工業包装、強化プラスチック成形

  3. 金属表面処理:めっき、アルミニウム陽極酸化処理

  4. 紙器・段ボール箱製造:紙器・段ボール箱製造

  5. コンクリート製品製造:コンクリート製品製造

  6. RPF製造:RPF製造

  7. 陶磁器製品製造:陶磁器工業製品製造

  8. 印刷・製本:印刷、製本

  9. 紡織製品製造:紡績運転、織布運転、染色、ニット製品製造、たて編ニット生地製造、カーペット製造 

  10. 縫製:婦人子供服製造、紳士服製造、下着類製造、寝具製作、帆布製品製造、布はく縫製、座席シート縫製

上記のほか、日本人が通常従事することとなる関連業務に付随的に従事することも認められています。
(関連業務例:原材料・部品の調達・搬送作業、各職種の前後工程作業、クレーン・フォークリフト等運転作業)

また、2号特定技能外国人(1号特定技能外国人として実務経験を3年以上経て、必要な試験に合格した人)については、2025年10月時点で、上記の1~3のみが業務区分となっていますが、1号特定技能外国人と違って「複数の技能者を指導しながら」1~3の作業に従事することとなります。

3.特定技能外国人(候補者)に必要な要件

外国人が工業製品製造業分野で特定技能ビザを取得して働くためには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 18歳以上であること
  2. 健康状態が良好であること
  3. 従事する業務に必要な知識又は経験を必要とする技能を有していることが試験等により証明されていること
  4. 日本での生活に必要な日本語能力及び従事しようとする業務に必要な日本語能力を有していることが証明されていること

3と4について、外国人がどのようなルートで1号特定技能外国人を目指しているかによって、求められる試験が異なります。以下、ご参照ください。

対象者 技能水準 日本語能力
特定技能試験 日本語試験等
関連職種・作業の技能実習2号を良好に修了した者
【技能実習2号ビザ】
免除 免除
関連職種・作業以外の技能実習2号を良好に修了した者
【技能実習2号ビザ】
製造分野特定技能1号評価試験 免除
上記以外の者 製造分野特定技能1号評価試験

■下記どちらかの試験合格
①日本語能力試験N4以上
②国際交流基金日本語基礎テスト

製造分野特定技能1号評価試験の詳細はこちらをご覧ください。
日本語能力試験の詳細はこちらをご覧ください。
国際交流基金日本語基礎テストの詳細はこちらをご覧ください。

【注意事項】

  • 関連職種・作業の技能実習2号を良好に修了したとして技能試験の合格等の免除を受けたい場合には、技能実習2号修了時の実技試験の合格証明書の写しの提出が必要です。合格していない場合は、製造分野特定技能1号評価試験を受験し合格するか、実習実施者が作成した技能等の修得状況を評価した文書の提出が必要です。
    なお、試験が免除される技能実習2号の関連職種・作業は以下のPDFを参照してください。
    (例:鋳造・鋳鉄鋳物鋳造の技能実習2号を良好に修了し、実技試験に合格した外国人は、機械金属加工の技能評価試験を免除されます。)
  • 1号特定技能外国人から2号特定技能外国人への移行を目指す場合は、さらに「製造分野特定技能2号評価試験」及び「ビジネス・キャリア検定3級」又は「技能検定1級」に合格する必要があります。
    上記試験の受験条件は、試験の前日までに日本国内に拠点を持つ企業の製造業の現場において、実務経験を3年以上有することです。

4.特定技能外国人を雇用したい企業が満たすべき要件

特定技能外国人を受け入れるためには、企業側も満たさなくてはいけない要件があります。
全分野共通の要件と工業製品製造業特有の要件に加えて、雇用形態・契約内容に関する要件や支援計画を作成することも求められていますので、併せて紹介します。

(1)全分野共通の要件

この中で1つでも満たさないものがあれば(欠格事由に該当すれば)、その日から5年間、特定技能外国人を受け入れることができません

  1. 労働、社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守すること
  2. 非自発的離職者を発生させないこと(特定技能雇用契約締結の前1年及び締結後)
  3. 行方不明者を発生させないこと(特定技能雇用契約締結の前1年及び締結後)
  4. 関係法律による刑罰を受けていないこと(刑に処せられ、その執行後又は執行を受けることが無くなった日から5年を経過していること)
  5. 実習認定の取り消しを受けた場合は、取り消しを受けてから5年が経過していること
  6. 出入国又は労働関係法令に関する不正行為を行っていないこと(特定技能雇用契約締結の前5年及び締結後)
  7. 暴力団員ではないこと
  8. 行為能力・役員等の適格性があること
  9. 特定技能外国人の活動状況に係る文書を作成し、雇用契約終了の日から1年以上保管すること
  10. 特定技能外国人とその親族が、保証金の徴収・違約金契約等を締結させられていないこと
  11. 特定技能外国人に対する義務的支援の費用を外国人に負担させないこと
  12. 特定技能外国人を派遣労働者として受け入れる場合、派遣元が当該分野に係る業務を行っている者等で、適当と認められる者であるほか、派遣先も1~4の基準に適合すること
  13. 会社が労災保険の適用事業所である場合、労災保険に係る保険関係の届出を適切に行うこと
  14. 特定技能外国人が継続して働くことができるように、会社が事業を安定的に継続することができる財政的基盤を持っていること
  15. 報酬の支払い方法について、基本的には預金口座への振り込みを行うこと
  16. 地域における共生社会の実現のために寄与する責務を果たしていること
  17. 特定産業分野ごとの特有の事情に応じて個別に定める基準に適合していること

上記の中で、特に注意したいのが、2の非自発的離職者です。これは、会社都合で離職させた人のことを指しますが、退職勧奨や試用期間からの本採用拒否も該当しますので、気を付けてください。詳しくはこちらをご覧ください。

(2)工業製品製造業分野特有の要件

工業製品製造業分野で特定技能外国人を雇用するためには、以下の要件も満たす必要があります。

  1. 国が定める日本標準産業分類に掲げる産業のうちのいずれかを行っている事業所に就労させること
    工業製品製造業分野では、鉄素形材製造業やプラスチック製品製造業、繊維業等、非常に幅広い業種が対象となっています。自社の事業がどの分類に該当するかは、必ず(一社)工業製品製造技能人材機構(以下、JAIM)のサイトで確認してください。また、上記の産業を行っているとは、直近1年間で、製造品出荷額等が発生していることを指します。
  2. JAIMの賛助会員になり、JAIMが定める行動規範を遵守すること
  3. 生産性向上及び国内人材確保のための取組を行っていることについて、JAIMの確認を受けること
  4. 経済産業省が行う一般的な指導、報告の徴収、資料の要求、意見の聴取、現地調査(オンライン調査も含む)、その他の業務に対し、必要な協力を行うこと
  5. 必要に応じて、特定技能外国人に対して訓練・各種研修を行うこと
    特に、技能実習で従事した職種とは異なる業務に従事させる場合は、労働災害を防止するために、十分な訓練や安全衛生教育を含む各種研修を実施する必要があります。
  6. 特定技能外国人からの求めに応じ、実務経験を証明する書面を交付すること
  7. 繊維工業を行っている場合は、以下の事項に関する措置を講じること
    ①国際的な人権基準に適合し事業を行っていること
    ②勤怠管理を電子化していること
    ③パートナーシップ構築宣言を実施していること
    ➃特定技能外国人の給与を月給制とすること
  8. 印刷・同関連業を行っている場合は、以下の事項に関する措置を講じること
    全日本印刷工業組合連合会、全国グラビア協同組合連合会、全日本製本工業組合連合会のいずれかに所属していること
  9. こん包業を行っている場合は、以下の事項に関する措置を講じること
    日本梱包工業組合連合会に所属していること
(3)雇用形態・契約内容に関する要件

工業製品製造業分野の特定技能ビザを申請する前に、採用予定者と適法な雇用契約を結んでおくことも要件の1つです。適法な契約の条件としては、次のものが挙げられます。雇用条件書の書き方についてはこちらをご参照ください。

  1. 労働関連法令に適合していること
  2. 業務内容が工業製品製造業分野で定められた10種類の業務のいずれかであること
  3. 直接雇用であること ※工業製品製造業分野では、派遣雇用は認められていない
  4. 所定労働時間がフルタイム(週5日以上かつ年間217日以上、かつ労働時間が週30時間以上)であること
  5. 特定技能外国人の所定労働時間が他の労働者の所定労働時間と同等であること
  6. 同等の業務に従事する日本人労働者の報酬額と同等以上であること
  7. 特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合は、有給休暇の取得をさせる等の配慮をすること
  8. 特定技能外国人が雇用契約終了後、帰国に要する旅費を負担することができないときは、企業が旅費を負担するとともに、円滑に出国できるよう必要な措置を講ずること
  9. 特定技能外国人の健康状況やその他生活状況を把握するために必要な措置を講ずること
(4)支援計画を作成すること

支援計画とは、1号特定技能外国人と雇用契約を締結しようとする企業が、作成しなければならないものです。この支援計画は、1号特定技能外国人が、活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするための職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援の実施に関する計画です。2号特定技能外国人には、支援計画不要です。)

この支援計画には、必ず行わなければならない義務的支援行うことが望ましいとされる任意的支援に分けられますが、支援計画書に記載した場合は、任意的支援についても支援義務が生じます。そして、この支援義務を果たさない場合、欠格事由に該当することとなりますので、注意が必要です。
なお、支援計画の項目は以下のとおりです(各項目に義務的支援と任意的支援が含まれています)。詳細はこちらをご覧ください。

  1. 事前ガイダンスの提供
  2. 出入国する際の送迎
  3. 適切な住居の確保に係る支援や生活に必要な契約支援
  4. 生活オリエンテーションの実施
  5. 日本語学習の機会の提供
  6. 相談又は苦情への対応
  7. 日本人との交流促進に係る支援
  8. 非自発的離職時の転職支援
  9. 定期的な面談の実施、行政機関への通報

これらの支援計画については、全部の業務を登録支援機関に委託することができます。ですが、支援計画書の作成は登録支援機関ではできませんので、事業所で作成するのが難しい場合は、ビザ専門の行政書士に依頼されることをおすすめします。

5.特定技能外国人を雇用する流れ(工業製品製造業分野の場合)

続いて、工業製品製造業分野の特定技能外国人(日本に在留しており、関連職種・作業の技能実習2号を良好に修了予定の外国人)を雇用するためのおおまかな流れをご紹介します。手続きの数が非常に多く、時間もかかるため、登録支援機関や行政書士のサポートを受けながら、進められることをおすすめします。手続きがすべて完了するまでに4ヶ月程度かかります。

STEP1

自社の産業が該当するかどうかの確認後、JAIMへの入会手続きを行う

※まずは自社の産業が工業製品製造業分野に該当するかどうかをJAIMのサイトで確認し、該当することが確認できたら、JAIMの賛助会員になるための手続きを行います。入会完了までに2~3ヶ月かかるため、特定技能外国人の受入れを決めたら、最初に手続きを済ませることをお勧めします。

STEP2

技能実習修了予定の外国人と雇用契約を結ぶ

※外国人の労働条件が適法であることが求められます。

STEP3

外国人の支援計画を策定する

※会社は、外国人が特定技能1号の活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするために、1号特定技能外国人支援計画書を作成し、この計画に基づいて支援を行わなければなりません。なお、この支援計画の実施について、一部又は全部を登録支援機関に委託することができます。その場合は、登録支援機関と委託契約を結ぶ必要があります。

STEP4

外国人に事前ガイダンスを行う

※労働条件、活動内容等について、対面又はZoom等で説明します。これも支援計画の1つであるため、登録支援機関に委託している場合は、登録支援機関が行います。

STEP5

本国で「特定技能」の活動に関して必要な手続きを行う

※特定技能外国人として日本で働く際に、カンボジア、タイ、ベトナムの外国人については、本国で定める手続きをし、証明書等を受領しておく必要があります。

STEP6

外国人に健康診断を受けてもらう

※健康状態が良好であることも審査基準の1つであるため、必ず受けてもらう必要があります。健康診断個人票に掲げられている項目が網羅されているものであれば、異なる様式の健康診断書を入管に提出しても問題ありません。

STEP7

外国人が関連職種・作業の技能実習2号を修了(在留期間満了3ヶ月前)

※技能実習期間を2年10ヶ月修了していることが必須条件です。

STEP8

特定技能1号ビザの在留資格変更許可申請をする

※審査に2ヶ月程度かかります。

STEP9 許可後に、就労開始!

6.工業製品製造業分野で特定技能外国人を雇った後の手続き

ここまで、特定技能外国人を雇うまでの要件や流れ等について紹介してきましたが、雇った後も特定技能特有の手続きが必要となります。以下、主要なものをご紹介します。

  1. 定期届出(1年に1回、対象年の翌年4月1日~5月31日までに入管に提出)
  2. 随時届出(雇用条件が変わった、退職した、支援計画が変わった等の際に、事由が発生した時から14日以内に入管に提出)
  3. 在留期間更新許可申請(在留期限が1年で付与される方がほとんどのため、毎年、在留期限の3か月前~当日までに申請)

1と2については、登録支援機関に相談しながら、手続きを行ってください。3については、行政書士に依頼されることをおすすめします。

7.まとめ

特定技能(工業製品製造業)を活用すれば、人手不足の解消に大きく役立ちます。
一方で、申請書類の作成や支援体制の整備等、専門的な知識が必要な手続きも多くあります。

当事務所では、特定技能制度の活用を検討する事業所様に対し、受入れ要件の確認から申請書類の作成及び申請までをトータルでサポートしています。外国人雇用を安心して進めたい事業所様は、ぜひ一度ご相談ください。

この記事の監修者

かざはな行政書士事務所

代表行政書士 
佐々本 紗織(ささもと さおり)

プロフィール
前職の市役所勤務の中で、国際業務に従事し、外国人支援の仕事に深く関わってきました。
その経験を活かし、行政書士としてより専門的なサポートを行うため、一念発起して資格を取得しました。
2025年5月に、広島県東広島市で国際業務専門の「かざはな行政書士事務所」を開業。
ビザ申請や帰化申請を中心に、外国人の方と企業の皆さまを支援しています。

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