介護分野で特定技能外国人を雇用するには?
~要件・試験・流れを解説~

投稿日:2025年10月1日

介護事業所を運営する中で、「人手が足りない」「募集しても応募が少ない」と悩まれていませんか?
慢性的な介護人材不足を背景に、注目を集めているのが特定技能(介護分野)による外国人雇用です。
特定技能制度を利用すれば、一定の試験に合格した外国人や実習等を受けた外国人を介護の現場で即戦力として採用することができます。
しかし、「自分の事業所でも雇えるの?」「どんな手続きが必要?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

この記事では、特定技能(介護分野)で外国人を雇用したい事業所向けに、制度の概要から人材・事業所の要件、手続きの流れ等をわかりやすく解説します。
外国人介護人材の受け入れを検討している事業所様は、ぜひ参考にしてください。

1.特定技能制度とは?介護分野が対象になった背景

介護分野が対象になった背景には、介護現場の深刻な担い手不足があります。従来の外国人受入制度だけでは人材確保に限界がありました。例えば、経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士候補者の受け入れは、2008年より行われていましたが、日本語の習得や国家試験合格のハードルが高く、途中で帰国するケースも多い状況でした。また、2017年から介護も対象となった技能実習制度は「技能を学ぶ」ことが目的であり、原則3〜5年で帰国しなければならないため、長期的な人材確保にはつながりにくいという課題がありました。

そこで政府は、2019年に創設された「特定技能制度」において、介護分野を対象産業の1つとして指定しました。特定技能(介護分野)ビザは、技能実習2号を良好に修了するか、一定の日本語能力試験と技能試験に合格する等、一定の条件を満たせば、介護福祉士の資格を持っていなくても取得することができ、介護現場で日本人と同等の待遇を受けながら最長5年間働くことができます。これにより、介護事業所は安定的に外国人介護人材を受け入れることが可能になり、人材不足の解消に向けた有効な手段として注目を集めています。

なお、特定技能ビザには、1号と2号がありますが、介護分野では1号のみで、2号への変更は認められていません。なぜなら、特定技能外国人が介護福祉士の資格を取り、介護ビザに変更する道筋があるからです。

2.介護分野で特定技能外国人が従事できる業務範囲

基本となる業務は、「身体介護等の業務のほか、これに付随する業務支援」 です。具体的には、次の業務に従事することができます。

  • 身体介護の業務:利用者の心身の状況に応じた入浴、食事、排せつの介助等

  • 付随する業務支援:レクリエーションの実施、機能訓練の補助等​

2025年4月より介護職員初任者研修課程等を修了し、介護事業所等での実務経験が1年以上あれば、訪問系サービスへの従事も可能となりました。また、夜勤も可能です

さらに、当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(例:お知らせ等の掲示物の管理、物品の補充等)に付随的に従事することもできます。ただし、関連業務を主な業務とすることはできません。

3.特定技能外国人(候補者)に必要な要件

外国人が介護分野で特定技能ビザを取得して働くためには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 18歳以上であること
  2. 健康状態が良好であること
  3. 従事する業務に必要な知識又は経験を必要とする技能を有していることが試験等により証明されていること
  4. 日本での生活に必要な日本語能力及び従事しようとする業務に必要な日本語能力を有していることが証明されていること

3と4について、外国人がどのようなルートで特定技能を目指しているかによって、求められる試験が異なります。以下、ご参照ください。

対象者 技能水準 日本語能力
特定技能試験 日本語試験等
介護の技能実習2号を良好に修了した者
【技能実習2号ビザ】
免除 免除
介護以外の技能実習2号を良好に修了した者
【技能実習2号ビザ】
介護技能評価試験合格 介護日本語評価試験合格
(日本語能力試験又は国際交流基金日本語基礎テストは免除)
介護福祉士養成施設を修了した者
【留学ビザ】
免除 免除
EPA介護福祉士候補者として4年間の在留期間を満了した者
【特定活動ビザ】
免除 免除
上記以外の者 介護技能評価試験合格

■①・②どちらかの試験合格
①日本語能力試験N4以上
②国際交流基金日本語基礎テスト
介護日本語評価試験合格

介護技能評価試験の詳細はこちらをご覧ください。
日本語能力試験の詳細はこちらをご覧ください。
国際交流基金日本語基礎テストの詳細はこちらをご覧ください。
介護日本語評価試験の詳細はこちらをご覧ください。

【注意事項】

  • 介護の技能実習2号を良好に修了したとして技能試験の合格等の免除を受けたい場合には、技能実習2号修了時の介護技能実習評価試験(専門級)の実技試験の合格証明書の写しの提出が必要です。合格していない場合は、介護技能評価試験及び介護日本語評価試験を受験し合格するか、実習実施者が作成した技能等の修得状況を評価した文書の提出が必要です。
  • EPA介護福祉士候補者として、就労・研修に適切に従事したとして技能試験の合格等の免除対象となるには、EPA介護福祉士候補者としての就労・研修を3年10ヶ月以上修了した後、直近の介護福祉士国家試験の結果通知書を提出し、合格基準点の5割以上の得点であることすべての試験科目群で得点があることを証明する必要があります。

4.特定技能外国人を雇用したい事業所が満たすべき要件

特定技能外国人を受け入れるためには、事業所側も満たさなくてはいけない要件があります。
全分野共通の要件と介護分野特有の要件に加えて、雇用形態・契約内容に関する要件や支援計画を作成することも求められていますので、併せて紹介します。

(1)全分野共通の要件

この中で1つでも満たさないものがあれば(欠格事由に該当すれば)、その日から5年間、特定技能外国人を受け入れることができません

  1. 労働、社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守すること
  2. 非自発的離職者を発生させないこと(特定技能雇用契約締結の前1年及び締結後)
  3. 行方不明者を発生させないこと(特定技能雇用契約締結の前1年及び締結後)
  4. 関係法律による刑罰を受けていないこと(刑に処せられ、その執行後又は執行を受けることが無くなった日から5年を経過していること)
  5. 実習認定の取り消しを受けた場合は、取り消しを受けてから5年が経過していること
  6. 出入国又は労働関係法令に関する不正行為を行っていないこと(特定技能雇用契約締結の前5年及び締結後)
  7. 暴力団員ではないこと
  8. 行為能力・役員等の適格性があること
  9. 特定技能外国人の活動状況に係る文書を作成し、雇用契約終了の日から1年以上保管すること
  10. 特定技能外国人とその親族が、保証金の徴収・違約金契約等を締結させられていないこと
  11. 特定技能外国人に対する義務的支援の費用を外国人に負担させないこと
  12. 特定技能外国人を派遣労働者として受け入れる場合、派遣元が当該分野に係る業務を行っている者等で、適当と認められる者であるほか、派遣先も1~4の基準に適合すること
  13. 会社が労災保険の適用事業所である場合、労災保険に係る保険関係の届出を適切に行うこと
  14. 特定技能外国人が継続して働くことができるように、会社が事業を安定的に継続することができる財政的基盤を持っていること
  15. 報酬の支払い方法について、基本的には預金口座への振り込みを行うこと
  16. 地域における共生社会の実現のために寄与する責務を果たしていること
  17. 特定産業分野ごとの特有の事情に応じて個別に定める基準に適合していること

上記の中で、特に注意したいのが、2の非自発的離職者です。これは、会社都合で離職させた人のことを指しますが、退職勧奨や試用期間からの本採用拒否も該当しますので、気を付けてください。詳しくはこちらをご覧ください。

(2)介護分野特有の要件

介護分野で特定技能外国人を雇用するためには、以下の要件も満たす必要があります。

  1. 介護福祉士国家試験の受験資格の認定において、実務経験として求められる介護等の業務に従事させることができる事業所であること(対象施設はこちら
  2. 1号特定技能外国人の人数が、当該事業所の日本人等(※)の常勤の介護職員の総数を超えないこと
    ※日本人等には、介護福祉士試験に合格したEPA介護福祉士、介護ビザの職員、身分系ビザ(永住ビザ、配偶者ビザ等)の職員を含み、技能実習生やEPA介護福祉士候補者、留学生は含まれません。
  3. 介護分野における特定技能協議会の構成員になり、必要な協力を行うこと
  4. 1号特定技能外国人を訪問系サービスに従事させる場合には以下の要件を満たすこと(詳しくはこちら
    ①当該外国人への研修実施
    ②同行訪問等によるOJTの実施
    ③当該外国人の意向確認、キャリアパスの構築等
    ➃ハラスメント対策の実施
    ➄ICTの活用等による環境整備
(3)雇用形態・契約内容に関する要件

介護分野の特定技能ビザを申請する前に、採用予定者と適法な雇用契約を結んでおくことも要件の1つです。適法な契約の条件としては、次のものが挙げられます。雇用条件書の書き方についてはこちらをご参照ください。

  1. 労働関連法令に適合していること
  2. 業務内容が身体介護等の業務のほか、これに付随する業務支援であること
  3. 直接雇用であること ※介護分野では、派遣雇用は認められていない
  4. 所定労働時間がフルタイム(週5日以上かつ年間217日以上、かつ労働時間が週30時間以上)であること
  5. 特定技能外国人の所定労働時間が他の労働者の所定労働時間と同等であること
  6. 同等の業務に従事する日本人労働者の報酬額と同等以上であること
  7. 特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合は、有給休暇の取得をさせる等の配慮をすること
  8. 特定技能外国人が雇用契約終了後、帰国に要する旅費を負担することができないときは、企業が旅費を負担するとともに、円滑に出国できるよう必要な措置を講ずること
  9. 特定技能外国人の健康状況やその他生活状況を把握するために必要な措置を講ずること
(4)支援計画を作成すること

支援計画とは、1号特定技能外国人と雇用契約を締結しようとする事業所が、作成しなければならないものです。この支援計画は、1号特定技能外国人が、活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするための職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援の実施に関する計画です。

この支援計画には、必ず行わなければならない義務的支援行うことが望ましいとされる任意的支援に分けられますが、支援計画書に記載した場合は、任意的支援についても支援義務が生じます。そして、この支援義務を果たさない場合、欠格事由に該当することとなりますので、注意が必要です。
なお、支援計画の項目は以下のとおりです(各項目に義務的支援と任意的支援が含まれています)。詳細はこちらをご覧ください。

  1. 事前ガイダンスの提供
  2. 出入国する際の送迎
  3. 適切な住居の確保に係る支援や生活に必要な契約支援
  4. 生活オリエンテーションの実施
  5. 日本語学習の機会の提供
  6. 相談又は苦情への対応
  7. 日本人との交流促進に係る支援
  8. 非自発的離職時の転職支援
  9. 定期的な面談の実施、行政機関への通報

これらの支援計画については、全部の業務を登録支援機関に委託することができます。ですが、支援計画書の作成は登録支援機関ではできませんので、事業所で作成するのが難しい場合は、ビザ専門の行政書士に依頼されることをおすすめします。

5.特定技能外国人を雇用する流れ(介護分野の場合)

続いて、介護分野の特定技能外国人(日本に在留しており、介護の技能実習2号を良好に修了する予定の外国人)を雇用するためのおおまかな流れをご紹介します。手続きの数が非常に多く、時間もかかるため、登録支援機関や行政書士のサポートを受けながら、進められることをおすすめします。手続きがすべて完了するまでに4ヶ月程度かかります。

STEP1

技能実習修了予定の外国人と雇用契約を結ぶ

※外国人の労働条件が適法であることが求められます。

STEP2

外国人の支援計画を策定する

※会社は、外国人が特定技能1号の活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするために、1号特定技能外国人支援計画書を作成し、この計画に基づいて支援を行わなければなりません。なお、この支援計画の実施について、一部又は全部を登録支援機関に委託することができます。その場合は、登録支援機関と委託契約を結ぶ必要があります。

STEP3

外国人に事前ガイダンスを行う

※労働条件、活動内容等について、対面又はZoom等で説明します。これも支援計画の1つであるため、登録支援機関に委託している場合は、登録支援機関が行います。

STEP4

特定技能協議会へ加入する

※在留資格変更申請前に加入する必要があります。

STEP5

本国で「特定技能」の活動に関して必要な手続きを行う

※特定技能外国人として日本で働く際に、カンボジア、タイ、ベトナムの外国人については、本国で定める手続きをし、証明書等を受領しておく必要があります。

STEP6

外国人に健康診断を受けてもらう

※健康状態が良好であることも審査基準の1つであるため、必ず受けてもらう必要があります。健康診断個人票に掲げられている項目が網羅されているものであれば、異なる様式の健康診断書を入管に提出しても問題ありません。

STEP7

外国人が介護の技能実習2号を修了(在留期間満了3ヶ月前)

※技能実習期間を2年10ヶ月修了していることが必須条件です。

STEP8

特定技能1号ビザの在留資格変更許可申請をする

※審査に2か月程度かかります。

STEP9 許可後に、就労開始!

6.介護分野で特定技能外国人を雇った後の手続き

ここまで、特定技能外国人を雇うまでの要件や流れ等について紹介してきましたが、雇った後も特定技能特有の手続きが必要となります。以下、主要なものをご紹介します。

  1. 定期届出(1年に1回、対象年の翌年4月1日~5月31日までに入管に提出)
  2. 随時届出(雇用条件が変わった、退職した、支援計画が変わった等の際に、事由が発生した時から14日以内に入管に提出)
  3. 在留期間更新許可申請(在留期限が1年で付与される方がほとんどのため、毎年、在留期限の3か月前~当日までに申請)

1と2については、登録支援機関に相談しながら、手続きを行ってください。3については、行政書士に依頼されることをおすすめします。

7.まとめ

外国人介護人材の受け入れは、制度理解と受入体制の整備が欠かせません。きちんと準備をすれば、人材不足を解消し、事業の安定運営につながります。
特に特定技能外国人は、訪問介護や夜勤を含め、日本人と同じように幅広い業務を任せられることが大きなメリットです。長期的な雇用も可能で、将来的に介護福祉士を目指す人材も増えてきていますので、現場の戦力として期待できます。
ただし、入管への手続きや契約書作成、支援計画の整備には専門的な知識が必要です。安心して外国人材の受け入れを進めたい事業所様は、ぜひ当事務所にご相談ください。

この記事の監修者

かざはな行政書士事務所

代表行政書士 
佐々本 紗織(ささもと さおり)

プロフィール
前職の市役所勤務の中で、国際業務に従事し、外国人支援の仕事に深く関わってきました。
その経験を活かし、行政書士としてより専門的なサポートを行うため、一念発起して資格を取得しました。
2025年5月に、広島県東広島市で国際業務専門の「かざはな行政書士事務所」を開業。
ビザ申請や帰化申請を中心に、外国人の方と企業の皆さまを支援しています。

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