退去強制事由に該当しても在留が認められる「在留特別許可」とは?
ガイドラインの積極要素・消極要素と実際の事例を解説

投稿日:2026年10月26日

退去強制事由に該当した外国人は、原則として退去強制の手続きの対象になります。しかし、日本人と結婚して実体のある生活をしている、日本で生まれ育った子どもがいる、難病の治療を受けている等の事情のある方を、一律に国外へ退去させることは、人道上の観点から問題となる場合があります。

在留特別許可は、退去強制事由に該当する外国人に対して、法務大臣が例外的・恩恵的に在留を許可する措置です。在留特別許可は以前から存在する制度ですが、2024年6月の入管法改正により、正式な申請手続きが創設され、考慮事情が法律上明示されるとともに、判断の透明性を高めるための「在留特別許可に係るガイドライン」が改定されました。

この記事では、制度の内容、ガイドラインの考え方、そして実際にどのようなケースで許可されたのかという事例データまでを整理して解説します。

1.在留特別許可が認められる5つのケース

入管法第50条第1項では、退去強制対象者に該当する場合であっても、次のいずれかに該当するときは、申請又は職権により在留を特別に許可できるとしています。

  1. 永住許可を受けているとき
  2. かつて日本国民として日本に本籍を有したことがあるとき
  3. 人身取引等により他人の支配下に置かれて日本に在留するとき
  4. 難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けているとき
  5. その他、法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき

多くの事案は5番目の事由で判断されますが、その際の考慮事情も法律に明示されました(在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性など)。

ただし、無期又は1年を超える拘禁刑(実刑)に処せられた人、集団密航・不法入国の仲介など一定の重大な退去強制事由に該当する人は、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」(例:日本での治療を続けなければ生命に危険が及ぶ具体的なおそれがある等)がない限り、在留特別許可はされません。

2.判断基準となる積極要素・消極要素

在留特別許可の判断では、各考慮事情に含まれる積極要素(許可にプラスに働く事情)と消極要素(マイナスに働く事情)を総合的に勘案し、積極要素が消極要素を明らかに上回る場合に、許可する方向で検討されます。
ただし、特に考慮する積極要素があっても必ず許可されるわけではありませんし、逆に考慮する消極要素があっても一切許可されないわけでもありません。また、退去強制令書が発付された後の事情変更は、原則として考慮されません。

(1)積極要素の例
  • 家族関係:日本人・特別永住者との間に出生した実子であること、その実子を扶養して監護養育していること、日本人等と法的に結婚し、相当期間の共同生活があり子がいるなど安定かつ成熟した婚姻であること。家族とともに生活する子の利益の保護の必要性は、積極要素として重視されます。
  • 素行・地域社会との関係:地域社会で相当程度活動している、初等中等教育機関で相当期間教育を受けている、第三者による支援の内容が十分であることなど。社会・経済・文化等の各分野で本邦に貢献し不可欠な役割を担っていることは、特に考慮されます。
  • 人道上の配慮の必要性:難病等により日本での治療が必要であること、本国の情勢不安により帰国困難なことが客観的に明らかであること、無国籍者で送還できないことなど。
  • その他:不法滞在を自ら申告するため出頭したこと、許可後に在留資格に基づく活動が見込まれることなど。
(2)消極要素の例
  • 出入国在留管理行政の根幹に関わる違反・反社会性の高い違反:集団密航への関与、他の外国人の不法入国を容易にする行為、他の外国人の不法就労や偽装に関わる行為、在留カード等の偽変造・不正受交付・行使、売春関連の行為など。
  • 反社会的勢力であること
  • 不法滞在期間が長期間にわたること:在留管理秩序を侵害する程度が大きいとして、消極的に評価されることがガイドラインで明確化されました。ただし、不法滞在中であっても日本人や地域社会との関係を構築している場合は、その結び付きが積極要素として考慮される場合があります。
  • その他:過去の退去強制・出国命令歴、仮放免・監理措置中の逃亡や条件違反、適正な納税義務の不履行、地域の迷惑行為、在留申請での虚偽申告、本国との結び付きが顕著であること等。

3.公表された事例から見る許可・不許可の傾向

それでは、出入国在留管理庁が毎年公表している「在留特別許可された事例及び在留特別許可をされなかった事例」を基に、その傾向を確認してみましょう。

(1)許可された事例の傾向
  • 自ら出頭している(出頭申告)
  • 婚姻の実態がある(日本人・永住者等との婚姻、婚姻期間が長い、同居・相互扶助の実態がある)
  • 子どもの監護養育の必要性がある(特に日本で出生・育った子ども)
  • 刑事処分がない、又は執行猶予以下(違反の性質次第で実刑以外は許可例あり)
  • 生活基盤・地域社会との結び付きがある
(2)不許可となった事例の傾向
  • 偽造在留カード行使・売春関連・不法就労のあっせん等の出入国在留管理行政の根幹に関わる違反(執行猶予判決でも不許可になり得る)
  • 薬物・窃盗等の実刑判決、前科が複数ある場合
  • 退去強制歴・出国命令歴・在留特別許可歴がある場合
  • 婚姻の実態が認められない、婚姻期間が短く子もいない場合
  • 配偶者に婚姻継続の意思がない場合

4.申請の方法

在留特別許可の申請ができるのは、次のいずれかの時から退去強制令書が発付されるときまでです。

  • 収容令書により収容されたとき(仮放免許可を受けている場合を含む)

  • 監理措置に付されたとき

退去強制令書が発付された後は申請できませんので、早めの判断が重要です。

また、申請の方法は、申請者の状況によって異なります。

  • 収容中の方:申請を希望する旨の意思表示を行い、入国審査官等と面接の上、申請します。
  • 仮放免・監理措置中の方:地方入管に出頭して、面接の上、申請します。
  • 16歳未満の方や疾病等により自ら申請できない方:父母、配偶者、子、親族が代わって申請できます。

申請に必要な書類は、退去強制手続の流れの中で、担当官から求められた書類を準備し、提出することとなります。申請のための手数料はかかりません。なお、在留特別許可の許否に不服がある場合の不服申立て(異議申立て等)はありません。

5.よくある質問(FAQ)

Q. 日本人と結婚していれば、在留特別許可は認められますか?
A. 必ずしもそうではありません。日本人との婚姻関係は積極要素として考慮されますが、婚姻に実態があるかどうかを含め、様々な事情を総合的に考慮して判断されます。

Q. 申請はいつまでにすればよいですか?
A. 収容されたとき(又は監理措置に付されたとき)から、退去強制令書が発付されるまでの間です。令書の発付後は申請できません。

Q. 申請に手数料はかかりますか?
A. かかりません。

Q. 許可されない場合、不服を申し立てられますか?
A. 在留特別許可の許否には不服申立ての制度はありません。

Q. 仮放免や監理措置と、在留特別許可の申請は併用できますか?
A. できます。仮放免許可を受けている場合や監理措置に付されている場合でも、在留特別許可を申請することは可能です。

6.まとめ

在留特別許可は、個々の事情(家族関係や子どもの生活環境、過去の滞在歴など)が総合的に判断されるため、一つとして同じケースはありません。法律やガイドラインが改正されたことで基準が明示された一方、退去強制令書が発付される前までに適切な主張と立証を行う必要があります。
一人で悩まず、手遅れになる前に、行政書士や弁護士などの専門家や支援機関へ早めに相談することをおすすめします。

この記事の監修者

かざはな行政書士事務所

代表行政書士 
佐々本 紗織(ささもと さおり)

プロフィール
前職の市役所勤務の中で、国際業務に従事し、外国人支援の仕事に深く関わってきました。
その経験を活かし、行政書士としてより専門的なサポートを行うため、一念発起して資格を取得しました。
2025年5月に、広島県東広島市で入管業務専門の「かざはな行政書士事務所」を開業。
ビザ申請や帰化申請を中心に、外国人の方と企業の皆様を支援しています。

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